サイエンス

2025.12.04 18:00

古代から現代まで、人類の歴史に名を残す「猛毒植物」3選

ソクラテスの死(Shutterstock.com)

ソクラテスの死(Shutterstock.com)

毒には、じわじわと血流に侵入するものもあれば、犠牲者が何が起こっているかもわからないうちに身体機能を停止させる即効性のものもある。ここでは、天然の致死性毒物を含む植物として屈指の知名度をもつ3種について紹介していこう。

これら3種の植物はいずれも、歴史と伝説、そして医学にたびたび登場してきた。また、それぞれがもつ毒は、異なる進化的戦略を通じて形成された。しかし、何よりこれらの植物は、同じ1つの重要な教訓を伝えている──美と危険は、時に同じルーツを持つのだ。

3種の植物は、最初から悪役を目指していたわけではない。どの毒も、生存のためのメカニズムであり、これらの植物を餌にしようとする、飢えた昆虫やその他の動物に対抗する手段として、長い歳月を通じて築き上げてきたものなのだ。

1. ドクニンジン:哲学者の毒

ドクニンジンの花 (Shutterstock.com)
ドクニンジンの花 (Shutterstock.com)

古代ギリシャの哲学者ソクラテスが、紀元前399年に死刑判決を受け、毒入りの茶を飲み干したという逸話は、皆さんも聞いたことがあるかもしれない。プラトンの『パイドン』によれば、ソクラテスは魂の不滅を説きつつ、穏やかに毒を飲み干したという。それから数分のうちに、彼の身体は徐々に麻痺し、やがて彼はまったく動けなくなった。毒の効果は、最初にソクラテスの足に現れ、じわじわと上半身まで広がっていった。

ソクラテスの死因の有力候補とされるのが、セリ目セリ科の顕花植物ドクニンジン(学名:Conium maculatum)がつくりだす神経毒、コニインだ。

学術誌『Food and Chemical Toxicology』に掲載された論文で述べられている通り、コニインは、化学的にはピペリジンアルカロイドに分類される。窒素を含む有機化合物のグループで、植物が化学防御の手段としてしばしば用いるものだ。

動物の体内に入ったコニインは、アセチルコリン受容体と結合し、神経と筋肉のコミュニケーションを阻害する。アセチルコリンは、筋肉の収縮に不可欠な神経伝達物質だ。

このため、ドクニンジンを(茶、あるいは植物体そのものとして)摂取すると、弛緩性麻痺を発症する。何よりも恐ろしいのは、『パイドン』で描写されている通り、摂取した者は、身体が麻痺する間も完全に意識を保つことだ。最終的には呼吸停止に至るが、中毒症状はゆっくりと進行する。

生物学的観点から見れば、ドクニンジンの毒性は優れた進化的戦略だ。多くの有毒植物と同様に、ドクニンジンは毒を利用して、動物に食べられることを回避している。紫色の斑点のある茎や、ニンジンに似た葉は、何の変哲もない無毒な植物に見えるかもしれない。だが、コニインが伝える化学的メッセージは、この上なく明確だ──「何があろうと、私を食べるな」。

今日においても、ドクニンジンはヨーロッパ、西アジア、北アフリカに広く自生し、道路際や牧草地で見かけることも多い。葉をほんの数枚食べただけで、家畜は死に至る。ヒトにとっても同じく猛毒で、わずかな摂取量(葉にして6~8枚)でも命にかかわる。

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翻訳=的場知之/ガリレオ

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