サイエンス

2025.12.04 18:00

古代から現代まで、人類の歴史に名を残す「猛毒植物」3選

ソクラテスの死(Shutterstock.com)

2. ベラドンナ:美しき毒

ベラドンナの花と果実 (Shutterstock.com)
ベラドンナの花と果実 (Shutterstock.com)

ベラドンナ(セイヨウハシリドコロ)は、ナス目ナス科に分類される顕花植物で、学名をAtropa belladonnaという。ロマンティックな響きだが、それも意味を知るまでの話だ。

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学名にあるAtropaの語源であるアトロポス(Atropos)は、ギリシャ神話における運命を司る3人の女神の1人であり、運命の糸を断ち切る役目を担う。Belladonnaはラテン語で「美しい女性」を意味するが、これはルネサンス期イタリアの女性たちが、瞳孔を拡張するためにベラドンナの抽出物を目薬として利用した、という歴史的な用法に由来する(当時は、大きな瞳孔が美しいとされていた)。

しかし、魅惑と危険は紙一重だ。2024年に発表された、ベラドンナ中毒患者の症例報告によれば、この植物の毒性は葉において最も強く、アトロピンやスコポラミンといったアルカロイドを多量に含む(ただし、果実も極めて強い毒性を持つ)。これらのアルカロイドは、体内のムスカリン受容体と結合し、神経伝達物質のアセチルコリンを阻害することが知られている。

これにより、摂取量が少ない場合には、瞳孔の拡張や、唾液分泌の減少が引き起こされる。こうした効果は、先述した審美的目的だけでなく、治療目的でも利用されることがある。だが、摂取量が多い場合には、せん妄、幻覚、死といった、ぞっとするような効果がもたらされる。犠牲者は、時に夢の中のような荒唐無稽な意識混濁を経験した末に、神経系の機能停止という末路をたどる。

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ドクニンジンと同様に、ベラドンナの毒も、高度な化学戦の賜物だ。ナス科の植物には、植物を食べる動物が不快な味を感じるよう、こうした毒素を進化させたものが多い。ところが、一部の鳥類はこの毒の影響を受けず、そのため彼らは種子散布者として申し分ない働きをする。ベラドンナの毒は、哺乳類には中毒を引き起こしつつ、鳥類には報酬となるように、精緻に調整された進化的フィルターなのだ。

美しさと死の危険という両義性のために、ベラドンナは人類史において伝説的な存在となった。中世の「魔女」は、ベラドンナを用いて「飛翔の秘薬」をつくったとされ、また暗殺者はターゲットの毒殺にベラドンナを利用した。ベラドンナは、自然界で最も危険な物質が、時に美しい外見を伴うことを教えてくれる好例だ。

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翻訳=的場知之/ガリレオ

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