「それはアメリカで起きていたことで、イノベーションはすべてそこで起きていました……アメリカこそが『破壊者(ディスラプター)』だったのです」とアムブローズは私に語った。「世界の残りは『破壊される側(ディスラプテッド)』でした。いつでも破壊する側にいたいでしょう? 破壊される側にはなりたくない。破壊される側になるのは本当にきついからです」。
アメリカは、そのイノベーションがもたらしたリターンを何十年にもわたって「食い物にしてきた」と彼は付け加える。
ヒト型を含むさまざまな形態のロボットは、今後1世紀にわたり、経済力と軍事力の背骨となる重要なイノベーションの1つになる可能性が高い。ロボットは西側諸国の人口高齢化に伴う労働力不足を補い、製造業の国内回帰(オンショアリング)を経済的に可能にする潜在力も持つ。
もちろんそれは、現在のオフショアリングのコスト優位性の一部を脅かすことになる。
「過去40年余りで中国を成功に導いたのは、低い労働コストでした」と、ロボットに関するレポートについてインタビューした際にディアマンディスは私に語った。「中国には、ほとんどあらゆるものを製造できる、非常に安価な労働力が大量にいました……だが、中国の生活費は上昇しており、1時間当たりの賃金も上がっています」。
アムブローズによれば、中国の強みは、政府による大いなる支援と多額の資金供給にある。
こうした支援と後押しが、現在のバブル――150社ものヒト型ロボット企業――を生み出した。しかし、バブルをそのまま膨らませ、やがて自然に弾けさせれば、1990年代後半のドットコム・ブームのように、莫大なイノベーションをもたらし得る。個々の企業や投資家にとっては非常に悪い結果に終わったケースも多かった。だが全体としては、Pets.comのような成功の見込みがほぼないスタートアップと、アマゾンのような最終的に巨大な勝者となる企業の双方に資金が投じられたことで、経済と私たちの生活様式が変化し、アメリカのテック大手が世界の大半を支配するきっかけとなった。
中国がヒト型ロボット分野のバブルを規制や人為的な抑制によって冷やすことは、投資狂騒や投機だけでなく、イノベーションそのものをも潰してしまうリスクがある。
そこに、たとえ乱雑であってもイノベーションを許容するという、米国にとっての潜在的な優位性が存在する。
米国には、得られる有利な点が1つ残らず必要になるだろう。ロボット、とりわけヒト型ロボットへの投資は多く、Figure AIへの10億ドル(約1557億円)超の投資やApptronikへの4億300万ドル(約627億円)の投資などがあるが、中国が国家的なロボティクス強化に1380億ドル(約21兆4800億円)を投じていると報じられていることを踏まえると、これでも十分ではない可能性がある。さらに、150社ある中国のヒト型ロボット企業のうち100社が倒産したり、生き残った企業に買収されたりしたとしても、残りの50社は、依然として米国のヒト型ロボット企業数の少なくとも2倍になると考えられる。
そのためアムブローズは、少なくともイノベーションを妨げないタイプの支援である限り、この業界にはなお政府の後押しが必要だと述べる。彼は2011年の「ナショナル・ロボティクス・イニシアチブ」に参加しており、同イニシアチブはロボット分野のイノベーションと投資を後押しした。
「私たちはパイプラインを構築しようとしていましたが、それはうまくいきました」とアムブローズは私に語った。「アメリカにおけるロボットスタートアップの数は爆発的に増え、ロボットに取り組む若者の数も爆発的に増えました」。
今再び同じことが起こる必要があると彼は言う。
「もし何もしなければ、日本がおそらく私たちを追い抜いてナンバー2になるでしょう……中国がナンバー1となり、私たちにとっては『底辺を争う』ことになります。それは私が知るアメリカの姿とは違います」。


