パンデミックによる経営危機を乗り越え、投資会社との取引により企業価値を大幅に向上
マクラーレンはその後、F1ランキングでも再び上位へと戻り始めた。だがその勢いは、パンデミックによって大きく揺さぶられた。資金繰りが悪化し、このままでは倒産しかねない状況に追い込まれたチームは、バーレーン銀行から約1億8500万ドル(約287億円)の融資を受けて、急場をしのいだ。そして2020年12月には、米投資会社MSPスポーツ・キャピタルに株式の一部を売却し、7億5000万ドル(約1163億円)の企業価値で追加資金を調達したことで、より持続可能な財務基盤を取り戻した。
ブラウンが進めた改革と、2021年にF1に導入されたコストキャップ制度が収益改善への道筋をつけたことで、チームの投資は結果的に大きなリターンを生んだ。9月には、マクラーレン・グループの親会社であるバーレーン政府系ファンドのマムタラカトと、アブダビ拠点の投資会社CYVNホールディングスが、MSPスポーツ・キャピタルなど既存株主が保有していた少数株式を取得し、レーシング部門の完全所有権を手にした。
この取引におけるレーシング部門の評価額は34億ポンド(約7038億円。1ポンド=207円換算)に達し、MSPが投資した当時の約6倍に跳ね上がった。
既存パートナーとの契約更新やSNSでの露出効果で、フェラーリに次ぐ広告価値を生む
ブラウン率いるチームの勢いは、その後も衰える気配がない。2025年シーズン開幕前には、Okta(オクタ)やAllwyn(オールウィン)との新たな契約を締結したほか、Alteryx(アルタリクス)、Medallia(メダリア)、Salesforce(セールスフォース)、Smartsheet(スマートシート)、Stanley Black & Decker(スタンレー・ブラック&デッカー)など既存パートナーとの契約も更新した。
サーキットでの快進撃は、スポンサーの露出にも確かな成果をもたらしている。スポンサー分析会社Blinkfireによると、過去12カ月間でマクラーレンがSNS経由で生み出した広告換算価値は約2億1000万ドル(約326億円)に達し、前年比8%増となった。これは、F1チームの中ではフェラーリに次ぐ規模である一方、フェラーリの広告換算価値は同期間に14%減少していた。またSNS投稿のエンゲージメント総数でもマクラーレンはフェラーリに次ぐ2位につけている。
技術規定の変更やスポンサー枠の制限といった課題に対し、参戦カテゴリーの拡大で対応
とはいえ、ブラウンとチームにはまだ課題が残っている。来年、F1では車体の小型化と軽量化を求める大幅な技術レギュレーション変更が予定されており、これがマクラーレンの競争優位性を揺るがす可能性がある。また、ドライバーがスポンサー関連イベントに割ける時間には限りがあり、提供できるスポンサー枠にも上限がある。
その制約を乗り越える方法の1つとして、ブラウンは参戦カテゴリーの拡大を視野に入れている。今年フォーミュラEから撤退したマクラーレンは、2027年には世界耐久選手権(WEC)への参戦を予定している。
マクラーレンが、年間収益約1550億円規模のチームに成長する可能性に言及
ブラウンの視線は、遠くを見据えている。彼は将来的に、マクラーレンが年間収益10億ドル(約1550億円)規模のチームに成長する可能性に言及する。この水準に達しているスポーツチームは現時点で、NFLのダラス・カウボーイズ、サッカーのレアル・マドリードのわずか2チームしか存在しない。
「これはすぐに実現できるものではない。だが、目指す価値はある」とブラウンは語った。


