経営・戦略

2025.12.06 17:00

F1の名門「マクラーレン」復活、マーケ出身CEOが商業戦略を最優先し6800億円企業に

2025年10月5日、マクラーレンF1チームは、シンガポール・マリーナベイ・ストリートサーキットで開催されたF1シンガポール航空シンガポールグランプリにおいて、コンストラクターズ世界選手権タイトルを祝った。(Photo by Robert Szaniszlo/NurPhoto via Getty Images)

ザック・ブラウンCEOは商業戦略を最優先、スポンサー収入をエンジニアリングに投資

マクラーレンの事業転換を主導したのが、2018年からチームを率いてきたマーケティング業界出身のザック・ブラウンだ。F1では長らく「勝てばスポンサーはついてくる」という考えが根強かったが、ブラウンはその前提を覆し、商業戦略の強化を最優先課題に据えた。この方向転換により、マクラーレンは収益構造でもフェラーリやメルセデスと並ぶチームへと成長した。

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フォーブスの推計によれば、マクラーレンの収益の約70〜75%を商業部門が占めている。F1からの分配金や賞金よりも、スポンサーシップやパートナー契約の比重がはるかに大きく、その多くはブラウンが獲得したグーグル、OKX、シスコ、デル、ヒルトン、レゴといった有力ブランドとの提携となっている。

モータースポーツおよびゴルフ領域でスポンサー戦略を支援するコンサルティング会社1440Sportsの創業者リッキー・ポーは、ブラウンの手法をこう説明する。

「ザックは従来のモデルを完全にひっくり返した。『勝ってからスポンサーを探す』のではなく、『まず知名度を高め、スポンサーと関係を築き、得た資金をエンジニアリングと人材に投資し、レースで勝つ』という順番にした。彼は循環型のモデルを作り、それを完璧に回している。競合は技術力だけで追いつこうとしているが、それでは勝てない」。

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マスターカードと年間約155億円の契約を結び、命名権枠を埋める

ブラウンの勢いは止まらない。マクラーレンは8月、来季からマスターカードがタイトルスポンサーとして加わると発表した。2013年にボーダフォンが手を引いて以来、空席となっていた命名権枠が、ついに埋まることになる。年間約1億ドル(約155億円)規模のこの契約は、2030年代半ばまで続くと報じられており、「マクラーレン史上最大のパートナーシップだ」とブラウンは語る。

この勢いが続けば、マクラーレンにはさらなる成長機会が開ける。とはいえ、1000分の1秒が勝敗を左右するF1では、油断した瞬間にすべてが崩れる。ブラウンはそのことをよく理解している。

「タイトルは“取れるかどうか”ではなく“いつ取るか”の段階に来ている。だからこそ、浮かれず着実に歩を進める必要がある」と彼は言う。「私たちは自分たちを“トップ3のチーム”として売り込むようにしている。そして期待以上の結果が出せたなら、それは素晴らしい。だが、最初からそれを当然と考えてはいけない」。

マクラーレンのザック・ブラウンCEO(Photo by Kym Illman/Getty Images)
マクラーレンのザック・ブラウンCEO(Photo by Kym Illman/Getty Images)
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翻訳=上田裕資

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