当初予算の2倍以上になった鉄道開発費
この10月にめでたく延伸が完了して、1カ月余りが経過した。中途半端な区間としか言えなかった第1区間イースト・カポレイからアロハスタジアムまでの運行時には、1日に数十人ということもあった乗客数も、パールハーバー・ヒッカム駅周辺にある米軍基地や国際空港内で働くローカルの利用が増えてきたのか、少しは通勤客らしき姿も見られるようになってきた。
この鉄道は今後、2031年までにカカアコ地区(アラモアナより西側の新興開発地区。高級コンドミニアムの建築ラッシュで知られる)のオーガニックスーパー「Down to Earth」に隣接する駅「シビックセンター」まで延伸することが決定しており、一見するところプロジェクトは順調に進んでいるように見える。
ところが、筆者のようなハワイ住民にとっては、この鉄道には不安材料しかない。
まずは予算の問題。2012年に予算52億ドル(約8000億円)で開始された鉄道建設計画は、当初2020年までに完成予定だった。
実際に現状の東側の終点予定である「シビックセンター」駅に隣接するコンドミニアム「ケアウホウ・プレイス」などは、2015年に販売された当時、2019年に鉄道が開通する(だからこの物件の価値は上がるぞ)と大々的にPRしていた。このコンドミニアムは2017年に完成したが、現在に至るまで、隣りには駅建設予定地である空き地がぽっかりと残されたままだ。
空き地だけならまだいい。いまや建設予算は開始時の2倍以上の124億4900万ドル(約1兆9300億円)に膨れ上がり、それでもまだ30億ドル(約4700億円)以上足りないと試算されている。
この予算不足を埋めるために誰に負担がかかるかというと、しっかりとハワイを訪れる観光客に転嫁されている。観光客が支払うホテル税13.25パーセント(2026年1月1日からはグリーンフィーと称する環境税が追加され14パーセントになる)のうちの3パーセントは、主に鉄道建設のために使われる。さらに、オアフ島内の消費税(GE TAX)4.712 パーセントのうち0.5パーセントは鉄道予算のために増額されたものだ。
さらに現在、米国は深刻な人手不足。世界的なインフレもあって輸送料や原材料費なども上昇し、建設費や地盤整備の費用もうなぎ上りだ。素人目にも、当初計画していた予算を今後さらに上回ることは容易に想像できる。
鉄道にばかり州の予算、つまりは税金が吸い取られていることに苛立っている人が多いのか、鉄道開発を管轄する公社「ホノルル高速鉄道輸送機構」(通称HART)には人員削減を求める声や、CEOの高額給与への批判などが殺到する始末。議会で追及される立場にならざるを得ないCEOのポストは不人気ポジションとなり、最近まで交替が相次いでいた。
現在のCEOであるロリ・カヒキナ氏は、2021年にホノルル市の環境サービス局長から暫定CEOに抜擢された後、第1区間の開通を成功させてCEOとして本採用された。
前任のアンドリュー・ロビンズ氏は、「年収31万7000ドル、年間5万5000ドルの家賃補助と7200ドルの交通費補助という、ホノルル市で最も高額な給与を受け取っている」というかなり個人的な批判をされて、コロナ禍に追加予算の承認問題で議会が紛糾したまま辞任することになった。
後任のロリ・カヒキナ氏も「年収27万5000ドル、ボーナスとして最大年収の20パーセント」と、なぜかさっそく待遇が公開されてしまった。このポストにこれほどプレッシャーがかかるのも、それだけこの鉄道事業がハワイ州政府のなかでも注目度の高い事業ということなのだろう。


