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2025.12.05 12:30

385兆円のAI投資で「電力需要爆発」、それでも揺るがない米国インフラの底力

Photo by Mario Tama/Getty Images

石炭火力の延命や原子力の再稼働により、長期的な電力供給が確保される見込み

一方、AI向けの電力需要の高まりは、石炭火力発電の復興を促す可能性すらある。石炭の利用量はこの1年で増加傾向にあり、トランプ政権下の米環境保護庁(EPA)は、バイデン政権時に導入された石炭火力規制の撤廃を提案している。コロラド州プエブロ郡では、代替電源が確保できるまでの間、電力会社Xcel Energyに対し石炭火力発電所2基の閉鎖の延期を求める要請が出された。

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メタ、マイクロソフト、アマゾンが既存の原子炉と契約、停止中の原発も再稼働へ動く

より長期的には、原子力の再評価・再稼働が電力供給を支える柱になる。メタ、マイクロソフト、アマゾンはいずれも、稼働から数十年が経過した既存の原子炉と長期電力契約を結んでいる。コンステレーション・エナジーは、停止中だったスリーマイル島の原子炉を再稼働するため連邦政府の融資保証を獲得した。

また、新規の原子力プロジェクトも動き出している。ウエスティングハウスとブルックフィールドは、総額800億ドル(約12.3兆円)規模のAP1000型原子炉建設計画に対して政府支援を取り付けた。同時に、十数社のスタートアップが小型モジュール炉(SMR)の開発競争を進めている。

トランプ政権のエネルギー長官であるクリス・ライトは、原子炉とデータセンターを連邦政府の保有地に建設するべきだと提案している。特に軍事基地は、許認可手続きが容易なうえ、停電リスクを抑えられるメリットがあるためだ。

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AI技術による資源探査や送電網の効率化によって、新たな供給余力が生まれる

国際エネルギー調査会社のウッド・マッケンジーは、「AIは自身が消費する以上のエネルギーを生み出す可能性がある」と見ている。同社は、世界の主要な油田・ガス田2500カ所の数十年分のデータを独自のAIに投入し、「統合型モデリング」によって分析を行った。その結果、既存油田で確立された最適技術を新規の油田にも適用すれば、世界の可採埋蔵量は最大5000億バレル増える可能性があるという結論に至った。

同様に、再生可能エネルギーの研究機関ロッキー・マウンテン・インスティテュートもまた、「まだ利用可能な電力供給余力は十分残されている」と指摘する。送電網の効率改善、高電圧送電線の増強、大口需要家がピーク時に使用量を抑える「デマンドレスポンス」制度の拡充によって、少なくとも50ギガワット分の電力が追加で確保可能になるという。

デューク大学の研究者も同様の可能性を示している。彼らの分析では、データセンター事業者が稼働時間の1%だけ電力消費を抑制するだけで、電力網には最大125ギガワットの“追加ヘッドルーム”(curtailment-enabled headroom)が生まれるとされている。

今回のデータセンター建設ラッシュの背景には、圧倒的な資本力の企業と米国政府が存在

悲観的な見方をするのは容易だ。歴史を振り返れば、鉄道網、光ファイバー、ガスタービン設備の整備など、過剰投資が市場に吸収されるまで長期を要し、多くの事業者が淘汰された例は確かに存在する。しかし、今回の状況は当時とは異なる。これはサブプライムローンでも、投機的バブルでもない。現在進んでいるデータセンター建設ラッシュの背景には、世界最大級の資本力を持つ企業と、米国政府が存在している。

そしてもし、AIの覇権を維持し、企業価値や市場支配力を守るために多くの電力が必要になるのであれば、彼らは必ずその手段を見つける。

forbes.com 原文

翻訳=上田裕資

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