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2025.12.05 12:30

385兆円のAI投資で「電力需要爆発」、それでも揺るがない米国インフラの底力

Photo by Mario Tama/Getty Images

急速な需要増加は米国経済にとって“良い問題”、克服可能だという楽観的な見方

一方、こうした悲観的なシナリオとは対照的に、楽観的な見方もある。戦略国際問題研究所(CSIS)でエネルギー安全保障を担当するジョセフ・マイクットは、最新のレポートでAIによる電力需要の急増は「米国にとって、向き合い克服すべき“良い問題”だ」と指摘する。「急速な需要の増加は、本来歓迎すべきニュースだ。貿易摩擦や景気の不確実性があるとはいえ、米国は数十年ぶりに経済成長と産業戦略を支えられる体制にある」と彼は述べている。

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同じ意見を持つ専門家は他にもいる。カナダの調査会社Enverusで電力市場を分析するカーソン・カールは、「電力こそが最大の制約だという声があるが、必ずしもそうとは言えない」と話す。必要な発電設備を十分なスピードで整備することは「不可能ではない」というのが彼の見立てだ。「最初は信じがたいという反応が出るが、条件さえ整えば、市場にはまだ余力がある」とカールは主張する。

効率的な資本市場を持つ米国なら、一気に「巨大プロジェクトを立ち上げられる」

VCファンド「50 Years」のアレックス・タンもこれに同意する。原子力やバッテリー、太陽光関連のスタートアップに投資してきた彼は、「もしハイパースケーラーがコミットしたのであれば、それは実現する」と指摘する。「米国は世界でも屈指の効率的な資本市場を持つ国だ。状況が変われば、一気に方向転換し、巨大なプロジェクトを立ち上げられる」。

政府の統計によれば、米国は2023年に40ギガワットの新規発電設備を建設し、今年は63ギガワットの建設ペースにある。その半分は太陽光だ。

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電力会社からの供給を待たず、データセンター開発企業が自前で発電設備を建設

データセンター開発企業の中には、電力会社からの供給を待つのではなく、自前の発電設備を建設する動きも広がっている。こうした「自家発電型」の取り組みは、特にテキサス州で顕著だ。同州の送電網は連邦規制の対象外で、許認可が比較的容易なためだ。テキサス州アビリーンでは、OpenAI、ソフトバンク、オラクル、投資会社MGXが進める「スターゲート」プロジェクトが、バックアップ電源として10基のガスタービンを建設している。

大手石油企業が安価な天然ガスを利用、電力市場に参入し利益を狙う

この分野には、意外な新規参入者も現れている。その代表例が大手石油企業だ。彼らは、低価格で取引されている天然ガスを電力に変換することで、価格差から利益を得ようとしている。テキサス州パーミアン盆地では天然ガスの供給過剰が続き、Wahaパイプライン拠点では今年、売り手が買い手に引き取り費用を支払う「逆ザヤ」の取引が発生した。

こうした状況を背景に、シェブロンは2027年までに5ギガワット規模のガスタービンをデータセンター向けに建設する計画を掲げている。製油所運営で発電設備を扱ってきた石油メジャーにとって、大容量タービンの調達や運転ノウハウはすでにある。

大型タービンの納期は4年待ちの状態、燃料電池や小型ガスタービンが選択肢に

一方で、他の事業者はそうはいかない。GEベルノバやシーメンス、日立製作所が供給する大型タービンの納期は4年待ちの状態だ。そのため、事業者は別の選択肢に移り始めている。プライベートエクイティ大手のブルックフィールドは、燃料電池メーカーのブルーム・エナジーと50億ドル(約7700億円)規模の供給契約を締結した。

イーロン・マスクのxAIは、テネシー州メンフィスで建設中のデータセンター向けに、キャタピラー傘下のSolar Turbinesから調達した出力約30メガワットの小型ガスタービンを多数導入している。Enverusのカールは、こうした中小規模のタービンだけでも年間25ギガワット分を調達できる余地があるとみている。

ゴールドマン・サックスの試算では、こうした新規データセンター向け電源の約6割が天然ガス由来になる見通しだが、これは米国にとって前例のない状況ではない。米エネルギー情報局(EIA)によれば、2002年には57ギガワットのガスタービンが電力網に追加された。当時は独立系電力会社Calpineが中心となって建設を牽引したが、天然ガス価格の高騰と供給逼迫により、同社は2005年に経営破綻している(同社は現在、Constellation Energyによる買収が進められている)。

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翻訳=上田裕資

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