米国では現在、人工知能(AI)の急激な普及に伴い、データセンターの建設ラッシュが加熱している。 テック大手各社は今後5年で電力消費量を倍増させる計画であり、その規模は一般家庭3000万世帯分に匹敵する。 これに対し、老朽化した送電網や発電能力が追いつかず、AI開発が失速するのではないかという懸念が現地では根強い。
しかし、本稿はそうした悲観論を否定する。豊富な天然ガス資源、原子力への回帰、そしてテック企業の圧倒的な資本力。これらを武器に、米国がいかにしてこの「エネルギー危機」を乗り越えようとしているのか。総額約2.5兆ドル(約385兆円)が動く巨大プロジェクト群の全貌と、エネルギー大国の底力を読み解く。
AI運用に必要な電力消費は3000万世帯分に達し、さらに倍増する計画
OpenAI、グーグル、マイクロソフト、アマゾン、メタなどAI大手は、2030年までにAIの運用に必要な計算能力を現在の2倍以上に引き上げる計画だ。現在、彼らはすでに約3000万世帯の消費量に相当する40ギガワットの電力を消費している。つまりこれに40ギガワットを追加し、合計で80ギガワット(6000万世帯分)以上の消費量になる見込みだ。
整備コストは5年間で約385兆円に達し、新たな発電所や送電網に使われる
この計画には、途方もない資金が必要になる。AI向けの計算能力を整備するためのコストは、1ギガワットあたり約500億ドル(約7.7兆円。1ドル=154円換算)とされ、今後の5年間の総額は2.5兆ドル(約385兆円)に達する見込みだ。投じられる資金の約8割は、エヌビディアやAMDなどが製造するGPUの購入に充てられる。残りの約5000億ドル(約77兆円)が、新たな発電所や送電網の整備費として使われる。
ゴールドマン・サックスは、現在の成長ペースが続いた場合、米国のデータセンターが消費する電力量が2030年に年間500テラワット時に達すると試算している。これは、国内全体の電力需要の1割を超える規模を意味する。
施設の建設が完了しても電力を確保できず、稼働できないリスク
「2028年から2029年にかけて、データセンターの施設そのものが完成しても、電力が確保できず稼働できないケースが出てくる可能性がある。警鐘を鳴らし始めるべきだ」と、デンバーのエネルギーコンサルタント企業East Daleyのアナリストのザック・クラウゼは指摘する。「彼らが壁に向かって突き進むようなことにならないとよいのだが」と続けた。
アマゾンなどの開発計画が電力供給を拒まれ、稼働が大幅に遅れる事例
こうした問題はすでに表面化している。オレゴン州では、Amazon Data Services向けに計画された総額300億ドル(約4.6兆円)規模のデータセンター開発に電力供給を拒まれたとして、アマゾンがバークシャー・ハサウェイ傘下の電力会社PacifiCorpを提訴した。
カリフォルニア州サンタクララでも同じ問題が起きている。Digital RealtyとStack Infrastructureが建設した50メガワット規模のデータセンター2棟はすでに完成しているものの、公営電力会社が送電網の改修を終えるまで電力供給を受けられない。改修費は4億5000万ドル(約693億円)にのぼり、稼働は早くても2028年以降になる見通しだ。
オハイオ州では、開発事業者が新規で30ギガワットの電力供給を申請したことを受け、電力会社AESは事業者に対し、必要電力の85%を長期契約で確保することを求めた。その結果、申請は半減し、現在の申請量は13ギガワットにとどまっている。



