生成AI市場でOpenAIの独走を阻もうとする有力スタートアップがある。グーグルやアマゾンから巨額の支援を受け、安全性重視を掲げるアンソロピック(Anthropic)だ。その同社が2024年、マイク・クリーガーを最高製品責任者(CPO)に迎えるという驚きの人事を断行した。インスタグラム共同創業者兼CTO(最高技術責任者)として、ユーザー数を数百万人から10億人まで伸ばした人物だ。
消費者向け(B2C)サービスの象徴的存在とも見なされるクリーガーが、なぜ堅実な法人向け(B2B)AIの世界に飛び込んだのか。彼の狙いは、高性能AIモデル「Claude(クロード)」を、単なる対話ツールから企業の業務基盤へと進化させることにある。
本稿では、ウーバーにおける効率化事例などを通じ、ソフトウェアエンジニアの支持を武器に企業の中枢に食い込むアンソロピックの戦略を追う。アンソロピックによれば、すでに法人顧客の6割が複数のClaude製品を導入し、業務フローに組み込んでいるという。ChatGPTを擁するOpenAIとの競争が激しくなる中、米国テック企業では「どのAIを自社の標準ツールに据えるか」というテーマが経営レベルの現実的な議題になっている。
ウーバーがClaude導入で「累計200年分」の開発工数を削減、業務効率化を進める
ウーバーのプラヴィーン・ネパリ・ナーガCTOは2025年初め、多くの社内ソフトウェアエンジニアがアンソロピックのClaudeを使ってコードを書いていることに気づき、何が起きているのかを確かめてみることにした。「毎日コードを書いているのは彼らで私ではない。だから自分でも週末に試してみた」とナーガはフォーブスに話す。
触ってみてすぐに分かったのは、不具合の修正や開発環境の移行といった、単純だが時間を奪う作業にClaudeが大きく役立つことだった。そこでナーガは、テスト段階にとどまっていたClaudeの利用範囲を本格的に拡大する決断をした。ウーバーの取り組みは進み、同社はClaudeのAPIを使って独自のコーディングツールを構築し、一部社内サービスには「AIの頭脳」としてClaudeを組み込んだ(契約額は非公開)。その結果ウーバーは、Claudeの導入によって「累計200年分」という途方もない開発工数を削減できたと試算している。これは、生成AIによる効率化の効果を測定する社内指標に基づく数字だ。
法人顧客の6割以上が複数のアンソロピック製品を併用し、利用範囲を拡大
ウーバーにおける事例は、アンソロピックの法人顧客の間で広がるトレンドを象徴している。企業はまず、チャットやコーディングなどClaudeの特定の機能を使い始め、その後他の用途を追加していく。アンソロピックは、法人顧客の6割以上が複数のClaude製品を活用しているとフォーブスに明かした(同社の売上の約8割がビジネス向けだと報じられている)。



