機能強化と巨額のインフラ投資で、OpenAIとの競争に挑む
ここ数カ月で、法人向けAI市場をめぐる大手の競争は一気に激しさを増した。アンソロピックもOpenAIも、顧客チームと協働し、モデルの調整を支援する「フォワード・デプロイ型エンジニア」を増やしている。アンソロピックは同時に、企業利用を後押しする新機能の開発にも注力している。10月に発表された「Agent Skills」は、指示文、スクリプト、参照資料をフォルダーとしてまとめ、必要なタイミングでClaudeがそこから参照できる機能だ。狙いは、エクセル操作やブランドガイドラインの遵守といった、専門性が求められる作業の精度を高めることにある。
2028年に初めて採算ラインに到達すると見込む──OpenAIはその2年後
アンソロピックが法人向け市場に徹底的に注力している姿勢は、最大の競合であるOpenAIとは対照的だ。そしてその戦略は、すでに成果を見せ始めている。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が報じたところによれば、同社は2028年に初めて採算ラインに到達すると見込んでいる。計算コストが膨張する現在のAI時代に、最先端のAIラボが黒字化に近づくのは異例で、これは快挙といえる。
対照的に、OpenAIは2028年の営業コストが740億ドル(約11.5兆円)に達し、その2年後の黒字化を見込んでいると報じられている。
アンソロピックとOpenAI、クラウドや計算能力の確保に向けて巨額投資を実行
両社はサービス運営を支えるため、巨額のデータセンター投資を進めている。アンソロピックは11月、クラウドベンダーFluidstackと、米国内のAIインフラに500億ドル(約7.8兆円)規模の投資を行うと発表し、まずテキサス州とニューヨーク州で構築を始めるとしている。先週には、同社はエヌビディアの技術を用いたMicrosoft Azureのコンピュート能力を300億ドル(約4.7兆円)分確保する契約を結んだと明かした。
一方OpenAIは、今後数年でエヌビディアやAMDを含むチップメーカー各社と総額1兆4000億ドル(約217兆円)規模のクラウド契約を結ぶ計画だ。
ソフトウェアエンジニアを起点とした現場からの変革が、全社的なAI活用の鍵
最後に、ウーバーの取り組みに触れておこう。ウーバーはまず、すでに利用していたコード生成ツール「Cursor」のようなソフトに、アンソロピックのClaudeモデルを組み込むところから導入を開始した。その後、プロトタイプ設計やコードの保守作業などにClaude Codeを活用するようになった。こうした使い方が広がる中で、ウーバーはClaudeを基盤とする社内向けコードレビューシステム「uReviewer」を開発し、現在では、社内のコード変更の9割以上をこのシステムでチェックしているという。
「非常に良い循環が生まれている。Claudeを導入した企業は、ごく短期間で社内全体に浸透させていく」とアンソロピックの北米事業責任者ケイト・アール・ジェンソンは語る。
一方、ウーバーのナーガは、このツールは同社のようなグローバル企業にとって特に重要だと語る。ウーバーは、さまざまな国や地域に向けて複数のアプリバージョンを提供しており、その数だけ異なる不具合も生まれる。「これまでは、手作業による修正の多さが制約になっていた」と彼は語る。
現場のソフトウェアエンジニアこそがAI活用を主導し、組織全体の変革を促す
ナーガは、Cursor、Claude、自社開発ツールを使った生成AIによるコーディングこそが、企業全体でAI活用が進む入口になると見ている。なぜなら、ソフトウェアエンジニアは現場の作業に最も近い立場にあり、AIが退屈で繰り返しの多い作業をどこまで自動化できるかを実例として示せるからだ。
「ソフトウェアエンジニアこそが、社内で最初にAIを使いこなし、他の部署を巻き込み、変化を広げていく存在になるべきだ」とナーガは指摘する。アンソロピックは、コード領域での強みを切り札に、その勝負に出ている。


