法人向け市場でのシェア獲得に向け、攻勢を強めるアンソロピック
こうした動きは、アンソロピックが法人向け市場へのシフトを本格化させていることを物語っている。法人向けAIは、世界的企業との大型契約が期待できる巨大市場だ。同社はすでに、化粧品大手のロレアル、Eコマースの楽天、税務申告ソフトのIntuitといった顧客を獲得している。ウーバーのように法人向けChatGPTとAPI機能を組み合わせて利用する企業や、デザインソフトウェアのCanvaのように、アンソロピックとOpenAIの双方を併用する企業もある。
法人向け市場は、消費者市場とはまったく別の世界だ。消費者領域ではユーザーの好みが移ろいやすく、製品の流行と陳腐化のサイクルもはるかに速い。「この会社が描く規模を考えれば、成功するにはエンタープライズ市場で勝つことが欠かせない」とクリーガーは語る。
企業向け市場で最も利用されるベンダーとなり、顧客数30万社に達する
アンソロピックはすでに足場を築きつつある。出資元のMenlo Venturesの調査によれば、アンソロピックは2025年84億ドル(約1.3兆円)規模に達した法人向け言語モデル市場で、最も利用されているベンダーとなった。アンソロピックは2025年の売上が10月時点で70億ドル(約1.1兆円)に達したとしており、年換算では90億ドル(約1.4兆円)に到達する見通しだとされる。
企業顧客数も急拡大している。アンソロピックは、2年前にはわずか1000社だった企業顧客が、現在では30万社に達したと説明する。一方、OpenAIでは、サム・アルトマンCEOが2025年の年換算売上が200億ドル(約3.1兆円)に到達すると述べているが、その大半は一般消費者向けだ。OpenAIの法人顧客数は100万社を超えるものの、サラ・フライアCFOによれば、9月時点で法人向け売上は全体の約3割にとどまっている。
「法人向け市場こそが、安定した収益への最短ルートだ。そこでこそ利益が生まれる」と語るのは、調査会社Technalysis Research創業者のボブ・オドネルだ。「アンソロピックは、消費者向けブランドとして世界に知られる存在になるといった、誇大で過剰な夢は抱いていない。それでいいのだ」。


