事業推進の支援を行うenableX(イネーブレクス)は、一般的なコンサルティングファームとは一線を画す。それは「事業創出」に特化している点だ。 同社代表取締役CEOの釼持駿、取締役の中村陽二、エグゼクティブディレクターの小村淳己に、AIを活用した次世代型の事業開発について話を聞いた。
── 多様な人材が集まるenableXが立ち上げられた経緯をお聞かせください。
釼持 駿(以下、釼持):enableXはコンサルティングファーム出身で、自ら起業・上場・事業売却などを経験してきた事業家たちが集結した会社です。プロダクトライフサイクルが短命化している現代において、事業を創出し続けることは安定的な成長において必要不可欠です。そして、そのような支援を得意とするパートナーは絶対的に不足しています。
大手コンサルティング会社にも実践的なメソッドがなく、コンサルタント自身も事業開発の経験がないケースが多い。結果として、膨大な調査資料や戦略提言といった紙ベースのアウトプットに終始してしまう。私たちはそうした「机上の空論」ではなく、お客様と一緒にフロントに立って事業を推進し、成功へと導くパートナーでありたいと考え、enableXを創業しました。
中村陽二(以下、中村):私もこれまで20ほどの事業を立ち上げ、なかには、数十億円の利益を出したAI関連の事業もあります。近年は、企業の事業開発支援を個人で行ってきましたが、スケールには限界があると感じていました。そんなときに釼持からenableXの話を聞き、「事業開発でナンバーワンになる」というビジョンに共感して参画を決めました。
── 新規事業を成功させる秘訣はあるのでしょうか。
中村:成功させるには、3つの要素が必要です。
まずひとつ目は、「自分たちが体現したい価値の定義」です。リーダーがその価値を理解していなければ、やみくもに「顧客の課題調査」ばかりを繰り返すことになります。
ふたつ目は、「定義した価値が顧客に受容されること」です。事業は自己満足ではありません。自分たちの信じる価値と他者が信じる価値を一致させ、顧客が「お金を払ってでも欲しい」と思うものを生み出すことが重要です。多くの企業は、社内視点が強すぎるため、顧客視点を見失い、結果として、誰にも求められていない事業を生み出してしまうのです。
最後は、「長期的に追求し続けること」。シンプルですが最も難しい部分です。継続していくためには、会社をかたちづくる人々の深い合意形成が必要です。ところが日本企業の多くは、権力が分散した構造で、誰が意思決定をしているかが見えない。長期的に新規事業を推進するためには、これをどう解決するかが課題です。そこで私たちが黒子となって企業の各部署を回り、コンセンサスの形成に努めています。日本の集団は空気が支配しているので、空気感をつくり出すことが企業を動かすうえで大事だと考えています。
釼持:事業開発をする際に一般的な企業は、ユーザーインタビューをしたり、カスタマージャーニーをつくったりしますが、根底となるフィロソフィーや理論がないため、実を結びません。私たちのメソッドを実行すれば、かなり高い確率で新規事業が成功します。そのためには、このメソッドをいかに素早く回せるかというスピードと試行回数が重要です。私たちはテクノロジーを活用することで、そのスピードと回数を高めています。
このメソッドとテクノロジーのかけ合わせこそが、私たちが提供するAIネイティブな次世代型の事業開発モデルです。
── 具体的には、テクノロジーをどのように活用しているのでしょうか。
小村淳己(以下、小村):釼持や中村が話すメソッドは、一度聞いただけでではすべてを理解することはできません。とはいえ、社員が必ず理解し実践可能にするべき内容です。そこで私たちは、個性化されたAIを活用することで、ナレッジを承継しています。
個性化されたデジタルクローンに経営陣の専門知や、当社がこれまでグローバルに培ってきたナレッジをAIが解釈可能な形式知としてインプットし、メンバーが何か質問をしたら、そのデジタルクローンが本人と同じような思考で答え、データ分析、インサイトの提供、示唆出し、資料作成までしてくれる。
人は一日に8時間しか労働できませんが、デジタルクローンは365日24時間いつでも質問に答えてくれますし、疲労に影響もされません。デジタルクローン同士でディスカッションをすることも可能です。このテクノロジーにより、個人の能力拡張・時間の拡張を実現させており、まさにAIネイティブな事業推進を実践しています。
── AIネイティブに事業を推進していくうえで重要なことは何でしょうか。
小村:AI知見・実践ノウハウを習得・活用段階で終わらせてはならず、人間の上にAIを付加価値として乗せる、あるいはAIの上に人間の独自価値を乗せるといった設計が非常に重要です。「ヒューマン・イン・ザ・ループ」といわれますが、AIをひとり歩きさせずに人間の判断やフィードバックを介入させ、AI学習に還元させたりしながら、利用する人間側も責任をもつ。AIと人間が共に高めあう環境をつくり、付加価値を向上させていくことが、私たちのソリューションです。そして、当社で実践した成功モデルを顧客にも提供していきます。
── これまでに、どのような支援実績があるのでしょうか。
中村:あるエネルギー企業で、継続的に事業創出をするための組織運営の方法を設計し、その運営と改善を行っています。弊社の有する事業開発の理論をお客様の文化に合わせて導入しながら、事業づくりをフロントに立って推進しています。実装段階の前に方針を十分に考えることも大切ですが、運営しながら改善することが重要なので、日々改善を続けています。
また、ある製造業の会社では、海外を対象にした事業戦略を考案して合意形成を図り、海外パートナーとの交渉・事業化をリードしています。紙のアウトプットに逃げず、最前線で事業をリードすることを重視しているので、キーパーソンへのアプローチから協議までを実際に行っています。
「事業開発のスタンダード」を創出しワクワクした未来を描く
── enableXは、どのような未来を目指しているのでしょうか。
小村:お客様から「斬新な新規事業やAIを開発しているね」と言われるサービスを追求していきたいです。それが独自価値や競争優位につながるはずです。お客様が使うサービスに身近さ、手軽さを与える等で有用性を証明し、蓋然性をもたせながら事業開発のなかにイノベーションを起こしていきたいですね。
中村:「事業開発のスタンダード」といわれる方法を生み出し、それが浸透する状態を目指しています。そのスタンダードを使って、多くの人や組織が創造性の発揮を楽しめるようになることを願っています。
釼持:当社のAIネイティブな事業開発のメソッドと実行力を日本だけでなく海外にも浸透をさせていくことで、皆が事業開発を得意とするようになり、便利なサービスが世の中に次々と生まれていく。そんなワクワクする未来をつくっていきたいです。
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