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2025.12.09 17:15

優秀なのに孤立する役員、経営チーム再建に効果抜群のCEOが生み出す「対話」

imagenavi/GettyImages

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「一人ひとりはとても優秀な役員にもかかわらず、経営チームとしては最大値を発揮できていない」これは私が行うエグゼクティブ・コーチングに、頻繁に持ち込まれるテーマのひとつです。

今回のクライアントは、IT業界のある上場企業のCEO(50代)。コーチング開始からしばらく経ったある日、彼は悩みを打ち明けてくれました。

役員たちの間に潜む「深く大きな溝」

CEO:社長になり2年弱が経ちますが、経営チームが「ひとつのチーム」になっていないと感じているんです。それぞれの役員には責任感があり、実績もスキルもある。私との関係が悪いわけでもない。けれど、役員同士で横につながってはいない。

鈴木:社長を中心に、役員それぞれが放射線状につながる典型的な「扇型のチーム」ですね。役員が連携しないのは、なぜでしょうか?

CEO:……役員というのは、難しい存在ですよね。当社で役員になれるのは0.5%ほどで、100人のうち一人なれるかどうか。だからこそ役員には「自分が選ばれた」自負があるし、相応の成功体験もある。それぞれに一家言あるわけです。それぞれ専門領域も違い、他の役員には自領域へ踏み込んでほしくない。しかも次の人事で、お互いの立場が上下が逆になることもある。そういう相手には強く意見を言いづらいものです。

鈴木:互いに領空侵犯はしない、暗黙の了解があるということですね。

CEO:はい。表面的にはうまくやっているけれど、腹を割って話すような関係ではない。

鈴木:とてもよくわかります。経営チームを良く分析されていますね。御社だけでなく、多くの企業で起きていることだと思います。

しかし、同じような状況でも、企業によっては役員同士で横にしっかりつながっている経営チームもあります。なぜあなたのチームはそうなっていないのでしょう。この質問は、「なぜご自分がその状況を許しているのか」とも言い換えられます。ご自身の関わり方については、どう考えますか?

CEO:……痛いところを突きますね。つまり、社長としてこの経営チームの状況を許してきた私の責任は何か、ですよね。本当の意味で、ひとつのチームにしようとしていなかった。どこか、後回しにしてきたと感じています。


世の中の問題には、いくつかの種類があると言われています。代表例として知られているのが、「単純な問題」と「複雑な問題」、そして「厄介な問題」です。今回のような問題は多くの場合、3つ目に分類されます(※)。

「単純な問題」とは、課題設定と解決が容易で、高い再現性のある問題のこと。例えばカスタマーサポートの現場でユーザーから特定機能の使い方に関する問い合わせが多く寄せられている場合、解決策としては製品サイトのFAQに使用方法を追記するといった対応が考えられます。

「複雑な問題」とは、課題設定も解決も困難ではあるものの、正解がある問題のこと。例えばロケットの開発では、使う部品もシステムも膨大かつ複雑で、研究者にサプライヤー、投資家など、関係する人材も組織も多岐にわたるため、高度な調整を要します。しかし、人工衛星の軌道投入や物資補給など、目標が明確で、物理法則に基づいた計算や標準化されたテストなど、ある程度の再現性が存在します。

他方で「厄介な問題」とは、問題の定義自体が難しく、人の感情が絡み合い、唯一の正解も再現性もない問題を指します。今回の経営チームの問題は、まさに典型でしょう。役員をはじめCEO自身も問題の本質を理解できておらず、解決策を見出せていない。役員個々の自尊心や縄張り意識など、複雑な感情や利害が交錯し、経営チーム内の状況も移り変わっていく。

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文=鈴木義幸

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