突発的な観光に対する「政治」の介入
「インバウンドの不条理」「観光の理不尽」の最たるものが、今年11月に勃発した日中関係の悪化と中国政府による一方的な訪日旅行自粛といえるかもしれない。
筆者は、この報道に触れた瞬間、2012年に起きた今回と類似した不快な記憶が蘇ってきた。その年の9月以降、中国国内での激しい反日デモをともなう異常な事態が起きていたからである。
当時何があったのかについて簡単にあらましを整理しよう。
ここに挙げたグラフは、訪日客数のアジアトップ5の常連である中国、韓国、台湾、香港、タイの東日本大震災前年の2010年から2016年までの推移だ。
震災が起きた2011年、すべての国が訪日客数を減らしたのは無論だが、翌2012年、すぐに回復したのは、台湾(前年度比47.5パーセント増)だった。これは震災後に日本から発出された訪日旅行キャンペーンに台湾の人たちが好意的に反応した結果といえる。
一方、中国の訪日客数の推移はこうだ。2011年5月という震災直後、当時の温家宝首相が来日し、日本に対する支援を約束したことで、台湾と同様、2012年は比較的急速に回復した。
ところが、翌2013年になると、唯一中国だけがマイナス(同7.8パーセント減)となった。理由ははっきりしている。2012年9月の日本政府による「尖閣諸島国有化」に対する反発のためだった。
このように政治が露骨に市場に反映するのが中国という国なのだ。ところが、ほとぼりが冷めたのか、2014年以降、彼らの内なる事情で再び反転し、その後の訪日客数は他国を圧するトップとなるのである。
観光を「政治の道具」にする中国政府は、民間交流を進める両国民にとって大きな障害だ。自然災害やパンデミックと比べると、人為的であるぶん、ある意味たちが悪い。
それでも、今回は一部のメディアを除くと、さいわい日本の国民は冷静に事態を受け止めているようだ。人口規模が破格の中国が21世紀に経済力をつけたことが、日本社会にさまざまな影響を与えるのは避けられないとしても、権威主義を振りかざす同国政府のふるまいに、むやみに翻弄されないよう心しておく必要を多くの国民が了解しているからだろう。
こうした突発的なインバウンド市場に対する「政治」の介入は、観光客の数を追うより大切なことを気がつかせてくれるのではないだろうか。
では外国人観光客を日本に呼び込むインバウンド推進の最大の目的は何なのか。インバウンドの活力と人的往来を、少子高齢化と人口減で消滅の危機にある地方自治体のうち、1つでも多く生き残らせることにつなげることではないか。局所的なオーバーツーリズムの話ではなく、日本社会の本質的な課題解決につなげる議論にいち早く転換していくべきなのだろう。


