日本のインバウンド(訪日旅行)市場は、2025年も順調に成長した。ついに初の訪日外国人数4000万人超えが想定される勢いだ。
そのせいもあってか、メディアは盛んに「オーバーツーリズム」の弊害を喧伝しがちだが、実際には京都や鎌倉、大阪環状線内などの一部を除くと、全国的にみれば、ほとんどの地方にインバウンドの恩恵は十分届いていないのが実情だ。あくまでオーバーツーリズムは局所的な現象なのである。
理由は明快で、一般の初来日の外国人観光客は、国際的に認知された観光スポット以外はよく知らないからだ。彼らからすると、「知名度」がない地方を訪れてみようと思うことは少ない。
本来は少子高齢化と人口減に悩む地方にこそ、多くの観光客に訪れてほしいものの、一部の有名観光地を除くと、まったくそうはなっていないのだ。
構造的な「インバウンドの不条理」
これまでいくつかの自治体のインバウンドの取り組みを取材したり、お手伝いをしたりしてきたが、こうした「来てほしい場所ではなく、もう多過ぎると地元住民が感じている場所ほど、観光客が来る」という皮肉というほかはない構造的な矛盾がある。それを筆者は「インバウンドの不条理」と呼んでいる。
観光庁は、各都道府県別の「訪問者数」に「消費単価」を乗じて算出する「旅行消費額」、すなわちインバウンドの経済効果の恩恵を推計する「訪日外国人消費動向調査」を四半期ごとに公表している。
これをみると、上位ランキングの常連は東京をトップに大阪、京都、福岡、北海道などで、ひとことで言えば、利用者100万人超規模の国際空港を有する都道府県なのである。
なぜそうなるのかといえば、島国である日本に訪れる外国人の玄関口は、空路か海路しかないからだ。言われてみれば誰もが理解できると思うが、海路の入国はクルーズ船の乗客くらいなので、訪問者数は空路、すなわち国際線のフライト数でほぼ決まるのである。
これはその他の地域に魅力がないせいではなく、国際線が乗り入れる空港を起点に彼らの日本旅行が始まる以上、そこに多くの外国人客が訪れ、お金を落とすのは無理もない話なのだ。
訪問者数を左右するもう1つのポイントが、外国人にとっての「知名度」だ。彼らが頭に浮かべる日本列島は、東京や大阪、京都、北海道、広島、沖縄などの国際的に知られる数少ない地名のみが記されている白地図のようなものだ。それゆえ、それぞれの地方に住む人にとっては価値ある魅力的なスポットも、知名度の低さゆえに、あっさり素通りされてしまうというつれない現象もしばしば起こる。
こうした条件の違いに加えて、筆者がこれこそ「不条理」だと言いたくなるのは、地域によって外国人観光客受け入れノウハウの経験値の差がますます広がっていることだ。
多くの外国人観光客が訪れる地域の人たちは、日々豊富な知見を身につけることができるし、それがさらなる恩恵を手に入れるために役立つ経験値として積み上げられていく。一方、現状外国人観光客が訪れていない地域の人たちは、こうした経験を得る機会がないからだ。
このままでは、本来地域おこしにつながる人的往来をいちばん必要としている地域の人たちほど、不利な状況が続くというわけだ。
彼らはどうすれば外国客が地元を訪れてくれるのか、その知見やノウハウを身につけることや、それが地元にどんな効果を生むかまで想像することは難しいだろう。日本のインバウンド市場において、オーバーツーリズムが局所的現象となりがちなのは、こうした「不条理」ゆえでもあるのだ。



