経営・戦略

2025.12.09 14:30

味の素 中村茂雄社長が語る「健全な危機感」経営

中村茂雄|味の素 取締役 代表執行役社長 最高経営責任者

中村茂雄|味の素 取締役 代表執行役社長 最高経営責任者

2025年10月25日発売のForbes JAPAN12月号第一特集は、「新いい会社ランキング2025」特集。上場企業を対象にした毎年恒例の大企業特集では、今年は「ステークホルダー資本主義ランキング」と、新たに「ESGフィット度ランキング」の2つを掲載している。ステークホルダー資本主義ランキングは、「地球(自然資本)」「従業員」「サプライヤー・地域」「株主」「顧客・消費者」の5つのカテゴリーで解析。ESGフィット度ランキングでは、サステナビリティ情報開示の義務化が進むなか、ESGの取り組みを自社の「稼ぐ力」につなげている企業を導き出した。同号では2つのランキング、IPOランキング上位の11企業の経営者インタビューを一挙掲載している。

「リトル味の素」ブラジル勤務時代から「もし自分がCEOだったら」を常にシミュレーションしてきた。 電子材料の開発で培った「高速開発システム」とグローバルの融合で、勝ち続ける会社を目指す。


2024年12月半ば、味の素の経営陣に緊張が走った。22年から社長を務めていた藤江太郎が脳疾患で入院したのだ。その情報はコンフィデンシャルですぐさま執行役以上に共有された。当時、執行役常務でブラジル味の素社長を務めていた中村茂雄は年末年始休暇のタイミングで帰国。「命に別状はなく、順調に回復に向かっている」と聞いて、ひとまず胸をなで下ろしていた。

ところが、年が明けて事態が動き出す。味の素はガバナンス強化のため21年から指名委員会等設置会社に移行していたが、1月10日に指名委員会から中村に呼び出しがかかった。新CEO選任の面談である。突然の呼び出しに驚いた一方で、中村にとって面談は覚悟していたことでもあった。実は3年ほど前から、味の素のトップに就任する日が来るかもしれないと準備していたのだ。

「私は22年4月にラテンアメリカ本部長ブラジル味の素社長を拝命しました。ブラジル味の素は食品事業をメインとしつつ、バイオ&ファインケミカルの工場も有する“リトル味の素”です。ブラジルは税制が非常に複雑で、経営の道場として最適な場だと位置付けられてもいました。実際、藤江やその前に社長を務めた西井(孝明)もブラジル味の素を経て社長になっています。ブラジル赴任が決まった瞬間から、自分がCEO候補のひとりになったという自覚はもっていました」

中村はバイオ&ファインケミカル畑の出身だ。次期CEO候補と自覚してからは、経験の浅い食品事業を研究するために日本から月報を取り寄せて、すべて目を通し、気になるものはブラジルで実践した。藤江のIR(インベスター・リレーションズ)の様子や投資家向けに話す内容も「自分ならどう説明するか」と考えながら聞いた。トップとして働くシミュレーションを重ねてきたがゆえに、突然の面談にも落ち着いて臨めたのだった。

指名委員会は中村の能力を高く評価した。面談の翌週、病床にいる藤江から「次を頼む」とバトンを渡された。 

「ブラジルには4年いる予定でした。あと1年やり切りたいという思いもあって、正直迷いました。しかし、この会社を成長させたいという思いが上回った。『全身全霊で頑張ります』と答えたら、藤江から『リーダーは健康でないと務まらないぞ』としかられました」

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文=村上 敬 写真=ヤン・ブース

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