食&酒

2025.12.06 16:30

手の中の太陽に乾杯したくなるオレンジリキュール

Forbes JAPAN本誌で連載中の『美酒のある風景』。今回は12月号(10月25日発売)より、「アペロール」。オレンジや多くのハーブ類を蒸留酒に浸漬していることから、さわやかな甘みとオレンジの果皮のようなほろ苦さが特長の1本だ。


夏はイタリアの北部を1週間ほど旅する機会があった。イタリアといってもオーストリアとの国境にほど近い、南チロル地方だ。アルプスやドロミテなど急峻な山の谷間に開けた小さな町では夏が短く、日照量も少ないからだろうか、晴れた日の午後をカフェやバーのテラスでゆったりと過ごす習慣があるようだった。

そんな人々が揃って手にしていたのが大振りなグラスになみなみと注がれた「アペロール スプリッツ」。イタリア産のリキュール「アペロール」にスパークリングワインと炭酸水を加えるアペリティフだ。

このあざやかなオレンジ色から、同じくイタリア産リキュールの「カンパリ」と混同されがちだが、「カンパリ」がミラノ生まれで、「アペロール」はパドヴァ生まれ。ハーブや樹皮、スパイス類を主原料としてやや苦みが強い「カンパリ」に比して、「アペロール」はオレンジや多くのハーブ類を蒸留酒に浸漬していることから、さわやかな甘みとオレンジの果皮のようなほろ苦さが特長。アルコール度25%の「カンパリ」が「ネグローニ」の材料となり、同11%の「アペロール」が飲みやすい「アペロール スプリッツ」になるといえば、それぞれの個性が伝わりやすいだろうか。

「当店では25年前のオープン時から『アペロール スプリッツ』を提供しています。日本におけるアペロ文化の浸透に大きく貢献しているのでは」と語るのは、「イル・バーカロ」(東京・新宿三丁目)の支配人、藤原猛幸だ。ヴェネツィア伝統の“バーカロ”スタイルを継承する同店は、夕方近くなるとチケッティと称される小皿の惣菜をつまみにワインや「アペロール スプリッツ」を傾ける人々で引きも切らない。立ち飲みであるがゆえに見知らぬ人とも会話が生まれやすい、まさにイタリアらしいアペロを楽しむことができる。

「スプリッツのオリジナルレシピは炭酸水を加えますが、こちらでは『アペロール』とプロセッコ(イタリア北東部産スパークリングワイン)だけでつくるため、飲みごたえも十分。柑橘の香りとさわやかな甘み、すっきりとしたのど越しで、オリーブオイルを使った野菜や魚介の前菜とも相性抜群です」

秋を迎え、これから日暮れが早くなっていく季節、古代中国の陰陽説によれば、冬へかけて陰のエネルギーが強まっていくそうだが......このオレンジ色のグラスを手にしていると、手の中に太陽を収めているようでどこか気分も華やぎ、活力が湧いてくるから不思議だ。

アペロール

容量|700ml
度数|11%
価格|1947円(希望小売価格)
問い合わせ|カンパリ・ジャパン株式会社 03-6455-5810

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写真=福本和洋 文・構成=秋山 都

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