すでに常識となってしまっている事実ではあるが、生成AIが急速に社会の中に浸透し、私たちの働き方や思考のプロセスを根底から変えつつある。
コンサルティングや教育、研究など、知的労働の中核領域でAIが「要約・翻訳・素案づくり」を肩代わりする時代が到来した。若手コンサルタントの主要業務の多くは、もはやAIによって代替可能であるという意見もではじめている。では、人間はどこで価値を発揮すべきなのか。
私は、これを「知る」「使う」「創れる」という三段階で捉えている。AIが前者二つを高速に肩代わりしつつある今、人間に残された優位性は“創る力”にある。つまり、ゼロから新しい価値を生み出す力である。この「創る力」を社会全体でどう育てるかが、生成AI時代の国家競争力を決めるとみている。
必要とされる20世紀的な発想からの脱却
私と同じくソニーに在籍した早稲田大学の大学院経営管理研究科で技術経営を専門とする長内厚教授は、ソニー内で開催されたソニーグループのアルムナイ(元従業員)向け座談会で、私との議論の中でこう語った。
「卓越した技術があればビジネスも勝てる、という20世紀的な発想は、現代では通用しにくい状況である。コンサルタントに限らず、エコシステムの中で共通部分は共創し、差別化できる領域で勝負するという発想が重要であり、AIが担える部分は増えていくが、戦略やマーケティングの力、つまり価値獲得につなげる部分は依然として人間の役割が大きい。」
ロールモデルの可視化の重要性
ソニー時代、私が在籍していた研究所は、多くの先進的なプロダクトと人材を輩出した伝説のエンジニアの木原信敏さんが所長を務められた事から「木原学校」と呼ばれていたが、そこでは、技術者が自らの技術で新しい製品や事業を立ち上げることが成功モデルだった。
先輩の挑戦を後輩が目の当たりにする──この「ロールモデルの可視化」が、企業文化を変える最初の一歩と信じている。しかし今日の日本企業には、イントレプレナー(社内起業家)を育てる環境が乏しい。失敗に厳しく、挑戦に寛容でない風土が、若手の意欲を削いでいる。
価値を利益に変える価値獲得が弱い日本企業
前出の長内厚教授によると「日本は技術力という“価値創造”には長けているが、“価値獲得”、つまりそれを規模化し利益に変える力が弱い。」
生成AI時代に勝ち抜くには、「両利きの経営」で言われている「活用と探索」の両輪を回すマネジメントが不可欠だという。ソニーが主力事業であったテレビ事業の低迷期にもグループ内の研究開発投資を引き下げなかったように、「投資を継続する姿勢」こそが次の飛躍を生むと長内教授は主張している。



