経済・社会

2025.12.02 14:15

トランプをはね返す習近平の『万里の長城』 日本を助ける余裕もなく

Photo by Andrew Harnik/Getty Images

11月24日、トランプ米大統領は習近平・中国国家主席、高市早苗首相とそれぞれ電話協議を行った。台湾問題を巡って日中関係が緊張するなか、米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)はトランプ氏が高市氏に対し、中国を挑発する発言をひかえるよう助言したと伝えた。木原稔官房長官は11月27日の記者会見で、WSJの記事にある「トランプ大統領から台湾の主権に関する問題で中国政府を挑発しないよう助言」という事実はないと繰り返し指摘した。日米関係筋は「細かな表現はともかく、日中の対立を激化させないようにしようという文脈では、WSJの報道は間違っていない」と語る。

複数の関係筋の証言を総合すると、トランプ氏は10月末の米中首脳会談で合意した米国産大豆の中国向け輸出などが順調に履行されているのか気がかりだったようだ。サンクスギビング(感謝祭)の前に、習近平氏に念を押しておこうと電話をかけたとみられる。あわよくば、習氏から景気の良い話を引き出してSNSに投稿し、支持率を上昇させたい思惑だったのだろう。この時点で、トランプ氏の頭の中に日本や高市氏のことはなかった。米中電話協議の前に、日米電話協議の事前調整も打診もなかったからだ。あるとすれば、「日中対立が米中合意の邪魔になっているかもしれない」(前出の日米関係筋)という程度のものだったろう。

ところが、習近平氏は電話をかけてきたトランプ氏に「これ幸い」とばかりにかみついた。日本を名指しこそしなかったが、30分ほど台湾問題について言及し、「台湾の中国への回帰は、戦後国際秩序の重要な構成要素だ」と主張した。トランプ氏は「米国側は中国にとっての台湾問題の重要性を理解する」と答えるほかなかった。

中国情勢に詳しい外交筋は「中国の最高指導者は皇帝と同じで、存在自体が神秘的でなければならない。電話協議などめったにやらない。トランプ氏の電話にすぐに応じたのは、それだけ習近平氏が高市氏の一連の発言に腹を立てている証拠だ」と語る。習氏は10月、高市氏との会談に応じたものの、首相就任の祝辞を送らないなど、高市氏のことを疑心暗鬼の目で見ていた。高市氏は日中首脳会談後の記者会見で「具体的に、もう率直に申し上げました」と述べ、尖閣諸島や香港、新疆ウイグル自治区の問題などを指摘したと明らかにした。台湾のアジア太平洋経済協力(APEC)代表との面会についてSNSに投稿した。前出の外交筋は「習近平氏にしてみれば、日本の立場もわかるが、そこまであけすけに刺激しなくていいだろうという思いだったようだ。たまった不満が存立危機事態答弁で爆発したのだろう」と語る。

習近平氏の剣幕に押されたトランプ氏は協議後、SNSに「我々の中国との関係は極めて強固だ!」と投稿したが、台湾には触れなかった。日米関係筋は「トランプ氏は中国側の台湾問題での激烈な反応に慌て、これは高市氏に伝えないとまずいと思ったようだ」と語る。そこで初めて、日米電話協議がセットされた。

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文=牧野愛博

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