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2025.12.24 11:00

福岡の知られざる家具メーカーがミラノで輝き続ける理由

世界の一流が集結する家具の祭典「ミラノサローネ」の常連。
なぜ、リッツウェルがトップブランドを保ち続けるのか。その果てなき旅路。


福岡県糸島市、穏やかな波音が響く玄界灘の海辺に、家具工場とは思えない美しい空間がある。1992年創業の福岡発の高級家具ブランド、リッツウェルのシーサイドファクトリーだ。広大な庭園にある2階建ての美術館のようにも見える工場は、「訪れた人に職人の繊細な仕事を見てもらう」ことを前提に設計された。福岡市中心部から車で約1時間の遠い場所にありながら、月に10〜15件ほど一般の顧客、建築家、海外からのバイヤーやデザイナーまで見学者が来訪する。

現場の責任者として工場のコンセプトづくりに携わった工場長の中村篤矢は、「訪れた方は皆さん、『家具一つひとつを、こんなに手間かけてつくっておられるんですね』と驚かれます。職人にとっても、お客様にじかに自分たちの仕事を説明できることが大きなやりがいとなっています」と語る。

リッツウェル糸島工場 工場長の中村篤矢。後ろにあるのがドン・キホーテの像。
リッツウェル糸島工場 工場長の中村篤矢。後ろにあるのがドン・キホーテの像

静かにジャズが流れる作業エリアで、職人たちはソファやいすに張るファブリックと革の裁断、縫製、張り、最終仕上げまで手仕事で行う。見学に訪れる人を最初に迎えるのは、吹き抜けに設置された白いドン・キホーテの像。33年前、リッツウェル創業者で先代社長の宮本敏明は、会社の船出をセルバンテスの冒険譚になぞらえた。

「父は、ドン・キホーテが風車に向かって戦いを挑んだように、世の中から無謀と言われても、世界を目指すという夢を抱いたんです」

2018年に父から会社を受け継ぎ、経営者兼デザイナーとしてリッツウェルの家具のほぼすべてをデザインする宮本晋作はそう語る。夢を現実のものとするべく、08年には世界最大規模の家具の見本市「ミラノサローネ」に初出展し、それから今に至るまでほぼ毎年出展を続ける。16年には、「ホール5」にアジアの家具ブランドとして初めて単独ブースを設置し、来場者の注目を集めた。世界三大デザイン賞のひとつと呼ばれるドイツの「レッド・ドッド・デザイン賞」やアメリカの「グッドデザイン賞」も受賞し、国際的な評価を高め続けている。

リッツウェルの家具はどれもこだわり抜いた手づくりの工程を経て世に送り出される。たとえば“究極の座り心地”を目指してデザインしたという「BEATRIX(ベアトリクス)」は総革張りの場合1脚100万円超。複雑な工程に加え、厚革加工や張りにおける高い技術が求められるためだ。

宮本によるプロダクトスケッチの数々がシーサイドファクトリーに展示されている。チェアの脚に「エンタシス」の書き込みも。
宮本によるプロダクトスケッチの数々がシーサイドファクトリーに展示されている。チェアの脚に「エンタシス」の書き込みも

現在、家具インテリア市場は1兆1,400億円規模(オフィス用家具を含む、2024年)、うち家庭用家具の国内シェアはその5割をニトリ、無印良品(良品計画)、イケアが占めるとされる。またECでの販売率が30%以上(生活雑貨含む)にも伸びている。家具メーカー買収のM&Aも近年目立ちつつあり、直近ではLVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)グループ出資の米投資ファンドLキャタルトンが、「家具のまち」福岡県大川市の家具卸売大手を数十億円規模で買収した。その衝撃は「ものづくり」の基盤が外資に買われたという声にも表れた。

一方、高級家具ブランドの国内市場規模は全体の1割に満たないと言われているものの業界団体のレポートでは2025年から2033年にかけて年平均成長率が4.8%になるという。そうしたなか、リッツウェルのブランド戦略は、職人を育てることによってうまれる「一点上質主義」と「顔の見える顧客づくり」、そして「海外進出」にこだわる。

「上質な家具づくりに欠かせない職人の美意識や技術力は、気持ちよく働ける快適な環境に身を置くことでこそ磨かれる。このシーサイドファクトリーの美しい空間でつくられるからこそ、大量生産されるものとは違う家具ができると信じています」(宮本)

福岡から世界の一流家具メーカーへ―その無謀ともいわれかねない夢を、一歩一歩現実のものとしていった足跡を追った。

職人の長尾さんが見せてくれた道具類。カッターには黒柿の木でつくった柄をカスタマイズ
職人の長尾さんが見せてくれた道具類。カッターには黒柿の木でつくった柄をカスタマイズ
牛革の型の切り抜きは機械で自動化されているため、複雑な曲線も自由自在。コントローラーで遠隔操作する。革の検品にも余念がない。
牛革の型の切り抜きは機械で自動化されているため、複雑な曲線も自由自在。コントローラーで遠隔操作する。革の検品にも余念がない

リーマンショックとミラノへの賭け

宮本の原点は父が集めた海外の名作家具にある。「この椅子かっこいいね」という会話を父とよくしていたという青年は、やがて大学の建築学科卒業を前に「世界一の家具職人になる」と心に決め、飛騨で3年、イタリアで2年の修業に励む。デザインと家具の聖地・ブリアンツァ地方のメーダで宮本は親方に厳しい指導をうけながらリベット打ちの単純作業の毎日。結局半年で仕事を離れることになり、失意の中で職を探す日々を送った。一人イタリア各地の歴史ある教会や建築巡りをしたのもこの頃だ。そこで学んだのはプロダクトを作る人間にとっての歴史感覚と美の基準だ。

「bello(ベッロ)。渡航して最初に覚えた言葉なんですが、イタリア語で『良い』を表すこの言葉は『美しい』という意味。つまり日常的に人々の判断基準に、歴史に裏打ちされた美しさがあるということです。そしてイタリアのモノづくりは、細部はちょっと雑でも、少し離れたところから見ると全体に素晴らしく調和が取れている。細部に徹底してこだわる日本の美とは違う、美しさの基準です」

ロット管理されたイタリアのファブリック。
ロット管理されたイタリアのファブリック

そして05年にリッツウェルに入社。営業職のかたわら、レストランやオフィスの特注家具のデザインを担った。しかし、2008年の年末、大きな転機が訪れる。同年におきたリーマンショックの影響で売り上げが激減したのだ。

「当時はオフィスや飲食店、ホテルが売上の中心で、影響をもろに受け、中国製や国内の競合ブランドとの価格競争に巻き込まれたのです」

いっときは、今のリッツウェルでは考えられないような価格を抑えたソファやテーブルをつくったときもあったという。だが奇しくもそのタイミングで、創業時に先代が抱いた「夢」が、現実となるための一歩を踏み出すことになる。

「経済産業省が当時、優れたデザインの日本ブランドを海外展開する支援を行っており、ほかのいくつかの家具ブランドと一緒に、ミラノサローネへの出展の打診を受けたんです。会社の資金的にも厳しい局面を迎えるなかで、イタリアの展示会に打って出ることは無謀でしたが、その挑戦に会社の未来を懸けることにしました」

「家具の最高峰が集まる海外の展示会で評価を得れば、国内外での認知も自然に高まるはずだ」という宮本たちの賭けは、正しかった。宮本がデザインした伝統的な「蛇腹戸」を採用したAVボード「JABARA」は、京都の町家に見られる葦戸や、嵯峨野の竹林のような「和」を感じさせる洗練されたデザインが高く評価され、レッド・ドット・デザイン賞2019 ベスト・オブ・ザ・ベスト受賞という快挙を遂げた。他にも数々の受賞歴のあるリッツウェルの家具を含め次第に、外資系ホテルや高級レストランに導入されることも増えていった。

チェアのフレームに厚革を編み込む工程。細部にわたり職人たちの技が光る
チェアのフレームに厚革を編み込む工程。細部にわたり職人たちの技が光る

大規模リコールを乗り越えて

しかしすべてが順風満帆に進んだわけではない。2012年には、住宅ブランドに納品したいすに、想定外の強度不具合が発生した。宮本らは関係先を一件ずつ訪ね、同製品を売った顧客をすべて回ってお詫びし、安全な新品に交換した。

「リコールを通じて、検査・品質管理の体制を徹底的に強化しました。すべてにおいて最高の家具をつくる、その意思を協力会社にも強くもってもらうようにしたのです」

宮本のブランディングにこだわりぬく姿勢はここから始まった。18年の社長交代後は、ブランドのビジョンやコンセプト固めに専念。19年に糸島にシーサイドファクトリーをつくったのも、世界最高の家具職人を育成できる環境づくりが目的。次いで“つくり手とつかい手をつなぐ”「表参道 SHOP & ATELIER」を22年にオープンさせた。

「糸島の新工場の設立には大きな投資が必要でしたが、無謀とも思われる挑戦の先にこそ、自分たちの理想とする家具がある」と決断した。糸島工場で働く職人たちのほとんどは、採用時には家具づくりの未経験者。しかし皆、「何か人に役立つものをつくりたい」という思いを胸に、リッツウェルの門を叩く。工場長の中村は「一人前の家具職人になるまでに10年。家具づくりと同じで、ここでは人づくりにもじっくり時間をかけられるんです」と語る。

シーサイドファクトリー2階にある職人たちの休憩ルームからは、糸島の海の絶景が望める。
シーサイドファクトリー2階にある職人たちの休憩ルームからは、糸島の海の絶景が望める

今年2025年まで、リッツウェルは計15回のミラノサローネへの出展を通じ、自分たちの家具に懸ける思いの理解者を増やし続けている。特に来場者の注目を集めたのが、展示会場で実際に職人たちが家具の製作をする姿を見せることだ。3年前のサローネに参加して、来場者に革の仕上げ作業を披露した工場長の中村はその印象をこう語る。

「家具に張る牛革はひとつとして同じものがなく、場所によって伸び方や風合いが違います。その個性に合わせて伸ばしたり削ったり、とことん美しく仕上げる作業を実際に見た人は、『ここまでやるんだ』と言葉を超えて感動してくれていました」

モダンな工場のなかでひときわ目立つ、使い込まれた機械は「革漉き機」。革が重なる部分は厚みが増し全体のフォルムに影響するため、部分的に厚みを調整する必要がある。その革を削ぐ工程を担う。兵庫県にあるニッピ機械の製品。
モダンな工場のなかでひときわ目立つ、使い込まれた機械は「革漉き機」。革が重なる部分は厚みが増し全体のフォルムに影響するため、部分的に厚みを調整する必要がある。その革を削ぐ工程を担う。兵庫県にあるニッピ機械の製品
音楽が流れる工場。「雨の日には雨の日らしい音楽を、と職人たちで話し合って決めているそうです」(広報・若山良子さん)
音楽が流れる工場。「雨の日には雨の日らしい音楽を、と職人たちで話し合って決めているそうです」(広報・若山良子さん)

暮らしのなかで人とともに時を重ねる家具は、時間がたつほどにその価値を増すものであってほしい。その思いからリッツウェルでは2020年にオーナーズクラブを開設し、ユーザーの家を訪問して使用感や家具への思いを聞くインタビューも始めた。

「リッツウェルの家具にどれだけ愛着を抱いているか、熱心に語ってくれるお客様も少なくありません。」と宮本は言う。「現代のパソコンやスマホとは違って、西欧で生まれたいすやテーブルといった家具は、1000年以上前から基本的な形は同じです。でもだからこそ、時代を超えた美しさや価値を、職人の手仕事に込めることができると思うんです」

職人を育て、一点上質主義を貫き通す。そのブランド戦略に迷いはない。

リッツウェル
https://ritzwell.com/


みやもと・しんさく◎リッツウェル代表取締役兼クリエイティブディレクター。1978年、福岡県生まれ。25歳で単身イタリアのクラシック家具を製作する工房にて修業し、帰国後、独学で家具のデザインを始める。2005年リッツウェル入社。18年代表取締役兼クリエイティブディレクターに就任。19年には「蛇腹戸」を採用した「JABARA AV BOARD」で「best of the best」を受賞。

Promoted by リッツウェル / text by Yutaka Okoshi / photographs by Kenta Yoshizawa

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