――興味深いご指摘ですね。2点、お尋ねしたいと思います。まず1つ目が、企業がDXに取り組む際には、包括的なアプローチが必要だという点です。これは現在進行形の課題です。それに加え、AIの台頭も目の当たりにしています。日本企業はAIにどのようにアプローチすべきとお考えですか?
ウィッタカー:私はAIをDXと同じ軌道上にあると捉えています。そして日本企業はそれに苦戦しています。主要なAIは米国のシリコンバレーから生まれ、最近では中国からも出てきている。そのため、日本企業は他所で開発されたシステムをどう使うかを考え、ロイヤリティを支払わなければならない。それが現実です。
DXとAIの軌道は、集中と支配へと向かっていると私は考えています。最終的にAIの一部が分散化・ローカル化されるかもしれませんが、私たちは今、AIが米シリコンバレーの巨大企業に支配されている世界に生きています。日本企業は、その枠組みの中で活動し、ハードウェアやインフラなどで価値を見出すしかないのです。そのため、私はAIをめぐる政治経済、あるいは世界的な政治経済について、あまり楽観的な見方はしていません。
――シリコンバレーがある米国以外の国、例えばウィッタカー教授が所属するオックスフォード大学があるイギリスでは、企業経営者はこの状況にどう対処しているのでしょうか?
ウィッタカー: イギリスでは、AIとサイバーセキュリティ、そしてAIが経済にもたらす脅威は、対になった議論として扱われています。イギリスは、AIの倫理と未来について議論を主導し、規範に関する世界的な対応を調整する「外交的な役割」で地位を確立しようとしています。
しかし日本同様、AIのリーダーがシリコンバレー出身である事実を受け入れ、米AI企業との提携を築こうとしています。同時に、AIの危険性、そしてサイバーセキュリティという根本的な問題があります。アサヒグループホールディングスのように、多くの企業が攻撃を受けているからです(編集部註:アサヒグループホールディングスは2025年9月下旬、サイバー攻撃によるシステム障害発生を公表した)。
イギリスではサイバー攻撃がより頻繁で、大量のデータがハッキングされるため、企業はセキュリティに神経質になっています。例えば、ジャガー・ランドローバーはオフラインに追い込まれ、重大な影響が出ました(編集部註:英自動車大手ジャガー・ランドローバーは2025年9月上旬、サイバー攻撃を受けたことで、小売り・生産活動に大きな混乱が生じていると明かしている)。
セキュリティとAI、そしてデジタル変革が社会にもたらす問題点は、イギリスで議論されています。おそらく、日本もイギリスと同様の「外交的な役割」を、東アジアにおいて果たせるかもしれません。もっとも、中国が同意するかは分かりませんが。
ともあれ、日本が「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」や「信頼性のある自由なデータ流通(DFFT)」を掲げているように、AIの規範に関する「誠実な仲介者」としての役割を果たせると思います。ただ、サイバーセキュリティと、サイバー空間の安全性への投資がもっと必要です。


