宇宙

2025.12.02 10:30

月の岩石に硫黄の同位体異常、50年以上前に採取のアポロ試料で新発見

月の岩石のサンプル採取活動を行うアポロ17号のユージン・サーナン船長と月面探査車(NASA)

月の岩石のサンプル採取活動を行うアポロ17号のユージン・サーナン船長と月面探査車(NASA)

1972年にNASAが実施した最後のアポロ有人月探査計画から宇宙飛行士が地球に帰還した際に、月の岩石とコアのサンプル(試料)約110.5kgを地球に持ち帰った。アポロ計画史上最大量のサンプルが持ち帰られたのは、宇宙飛行士の1人のハリソン・シュミットが地質学者だったおかげだろう。

宇宙飛行士が収集したこのサンプルの一部は密封され、厳重に保管された。未来の研究者が進歩した機器で分析し、新たな発見を提供するのを期待してのことだ。

今回の研究でまさにそれを成し遂げたのは、米ブラウン大学地球・環境・惑星科学部助教の地球化学者ジェームズ・ドッティン率いる研究チームだ。

研究チームは月の岩石サンプルを密閉された分析用容器に入れてレーザーで加熱し、微量の試料物質を気化させた。この「岩石の蒸気」を検出器に注入し、どのような種類の原子が蒸気中に存在しているかを測定した。その結果として得られた質量スペクトルにより、分析対象のサンプルの化学組成と同位体組成が明らかになった。

研究チームは、月のタウルス・リットロウ地域から採取した火山岩で驚くべきものを発見した。硫黄の安定同位体4種類の1つである硫黄33(33S)が極端に少ない硫黄化合物がサンプルに含まれていることが、今回の分析で判明したのだ。33Sが少ない月のサンプルは、地球で見られる硫黄同位体比とは著しく対照的だ。

「これまでは、月のマントルの硫黄同位体組成は地球と同じと考えられていた」と、ドッティンは説明する。「今回のサンプルを分析する際にも、そういう結果になるだろうと予想していたが、地球で見られる組成とはまったく異なる数値が確認されたのだ」

この硫黄同位体異常に関しては、可能性のある説が2つあると、研究チームは論文に記している。

1つは、異常な33Sの兆候が、月の初期の表層で起きていた化学反応の名残かもしれないとする説だ。光学的に希薄な(電磁波が透過できる)大気中で硫黄が紫外線と相互作用すると、33Sの割合が減少する。月の歴史の初期には大気が短期間存在したと考えられており、これがこの種の光化学反応の後押しとなった可能性がある。

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翻訳=河原稔

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