欧州

2025.12.01 11:30

ウクライナでスターリンクの携帯向け直接通信サービスが開始 欧州初

ウクライナの首都キーウにある同国最大の通信事業者キーウスターの店舗。2023年12月14日撮影(Vitalii Nosach /Global Images Ukraine via Getty Images)

ウクライナの首都キーウにある同国最大の通信事業者キーウスターの店舗。2023年12月14日撮影(Vitalii Nosach /Global Images Ukraine via Getty Images)

ウクライナ最大の通信事業者キーウスターは、米宇宙企業スペースXが運営する衛星インターネットサービス「スターリンク」の直接通信技術を欧州で初めて導入した。英ロイター通信が伝えた。これにより、戦時中の停電や社会基盤の混乱の中でも通信を維持できるようになる。

当初はショートメッセージサービス(SMS)から提供を開始し、2026年には音声通話やデータ通信にもサービスを拡大する計画だ。この技術により、通常の4Gスマートフォンも追加ハードウエアを必要とせずに衛星ネットワークに直接接続できるようになる。ロシア軍がウクライナの電力施設を組織的に標的とする中、これは極めて重要な機能となる。

キーウスターのオレクサンドル・コマロウ最高経営責任者(CEO)は「ウクライナでは、つながりを保つことが安全を保つことになる」と述べた。このサービスにより、同社の2250万人の顧客向けにネットワークの耐障害性が強化される。コマロウCEOは、携帯端末への直接通信技術が、ロシア軍の占領から解放された地域や長期にわたる停電時、救助活動などで不可欠な命綱となるだろうと強調した。

同サービスは開始直後から瞬く間に需要が拡大した。キーウスターのイッリャ・ポリシャコウ新規事業責任者は、サービス開始から24時間以内に30万人のキーウスター加入者が登録し、衛星経由で約10万件のSMSが送信されたと説明した。

進化であって革命ではない

ロシアとの国境から30~40キロ離れた場所に居住するウクライナ国立スミ大学のオレクシー・プラストゥン教授は筆者の取材に対し、この新たなサービスは「現実に適応するための次の段階」だとした上で、「これは革命ではなく、進化だ」と述べた。

プラストゥン教授は、戦争初期のロシア軍による停電作戦の絶望的な日々について語った。「2022年秋の最初の停電の波が起きた際、4Gは非常に不安定だった。停電時には皆が一斉に自宅のインターネットからモバイル通信に切り替えたため、ネットワーク負荷が急激にかかり、システムは全ての要求を処理することができなくなった。また、当時は多くの携帯通信事業者が自律電源を備えていなかった」。同教授は当時の状況をこう回想する。「大勢の聴衆を前にした重要な会議を控えていたが、せめて4Gの電波を少しでも拾おうと、窓辺の暗がりに座り込んでいたことを覚えている。結局、うまくいかなかった」

通信事業者はその後、バックアップ電源システムに多額の投資を行ってきた。コマロウCEOは、キーウスターがバッテリーと発電機を追加し、電力供給が停止した場合でも10時間以上の連続通信を確保したと説明する。プラストゥン教授は「現在の状況ははるかに良くなっている」と言う。「停電時、4Gは以前よりはるかに安定して動作するようになった」

通信の接続性は生死を左右する

信頼性の高いインターネット接続の重要性は、単なる利便性にとどまらない。ウクライナ中部ドニプロで人道支援活動に従事するアリナ・ホロウコは筆者の取材で、ウクライナ国民は今や安全を確保するために完全にインターネットに依存していると語った。「軍事活動や空襲警報、予定変更、連絡事項、その他の警告に関する情報は全てオンラインで確認できる」。インターネット経由で伝達される空襲警報により、人々は対応し避難することができる。これはミサイル攻撃時には生死を分ける問題だ。だが、停電に見舞われると、この重要な警報システムも機能しなくなる。

現在も依然として厳しい状況が続いている。ホロウコによれば、停電は7~8時間続き、その間に電気が通るのはわずか3~4時間だという。「停電すると、給水や暖房用のポンプが作動しなくなる」。高層ビルは一時的に熱を保持するが、冬が近づくにつれ、停電の影響は大きくなる。

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翻訳・編集=安藤清香

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