米実業家イーロン・マスクとウクライナの複雑な関係
ウクライナ軍は戦場通信と無人機(ドローン)作戦でスターリンクに大きく依存している。だが、この依存関係は脆弱(ぜいじゃく)性も生み出している。スペースXのイーロン・マスクCEOは特定の地域でスターリンクの利用を制限しており、ロシア占領下のウクライナ南部クリミア半島や、2022年にウクライナ軍が南部ヘルソン周辺で反撃する際に同サービスを利用できないようにしたと報じられている。
マスクCEOはウクライナの防衛を支持する姿勢と、戦争の行方に対する懸念の間で揺れ動いてきた。同CEOは2022年、スペースXがウクライナ向けスターリンクの資金提供を継続できなくなったと表明したが、その後方針を転換した。同CEOは3月、X(旧ツイッター)に、ウクライナの「ゼレンスキー(大統領)は永遠の戦争、つまり終わりのない汚職の肉ひき器を望んでいる。実に邪悪だ」と投稿し、同大統領を批判した。筆者の取材に応じた英コンサルティング企業インサイト・フォワードのトレストン・ウィート最高地政学責任者(CGO)は、マスクCEOは政治的右派と連携し、現在ではウクライナを巡る米政府の議論を形作るイデオロギー闘争に介入しつつあると説明した。
ロシア軍の攻撃による損失
ロシア軍がウクライナの電力施設への攻撃を強める中、同国では耐障害性のある通信の必要性が高まっている。ロシア軍は侵攻開始から4年近くにわたり、数百機の無人機とミサイルでウクライナの電力施設などの社会基盤を攻撃し、同国の発電や配電に損害を与えてきた。先述のプラストゥン教授は「被害は危機的状況に近づいており、状況は悪化の方向に向かっている」と述べた。
ウクライナ紙キーウ・インディペンデントの報道によると、数カ月にわたるロシア軍の攻撃強化により、ウクライナの発電施設の約7割が破壊され、電力会社は冬を前に、適合する変圧器やタービン、750キロボルトの送電網設備を早急に調達しなければならない状況に追い込まれている。
欧州諸国は、ウクライナのソビエト時代の設備に適合する在庫を保有しておらず、一部の高電圧部品は製造に最大1年を要する。これにより、計画停電は一部地域で1日最大12時間に及ぶようになり、当局は代替可能な予備設備の在庫が1年以内に枯渇する恐れがあると警告している。
物理的な攻撃に加え、ロシアは2023年12月に大規模なサイバー攻撃も実施し、キーウスターのサービスの一部を停止させた。この障害により、数百万もの人々が携帯通信やインターネットに接続できなくなった。
携帯端末への直接接続ではロシア軍の攻撃を阻止することはできないが、電力網が機能停止した際の代替手段をウクライナに与えることになる。電力施設への負荷が増大する中、衛星接続は遮断が困難な並列ネットワークとなり、他の通信網が故障しても市民のオンライン接続を維持できるようになる。


