このアプローチにより、オントンは消費者がブランドロイヤリティを形成しにくいインテリア・家具市場で事業規模を急速に拡大した。次なる照準は、アパレルと家電だ。新機能「キャンバス」の実装によって、ユーザーは画像やコレクション(ユーザーがAIで生成したインテリアデザインのイメージなど)をアップロードし、検索対象の「雰囲気」を定義できるようになった。これは、ECの購買プロセスが単なる対話ではなく、視覚と感情を重ね合わせた意思決定であるという同社の哲学を象徴している。実際、この機能はユーザーの支持を集めており、アイテムの比較検討時に選択肢のユニークさを見極める手助けとなり、インテリアや模様替えの意思決定スピードを高めていると評価されている。そして、この消費者行動の変容こそが、現在、大手小売各社がこぞって対応策を模索している課題である。
ウォルマートの新展開が示す小売市場の行方
小売大手は既に、業界ルールを書き換えつつある。ウォルマートは、フルフィルメントエンジン(注文受付から配送まで、一連のEC業務を自動処理するシステム)や商品管理システム、顧客体験の基盤にAIを統合している。その成果は顕著で、店舗から発送されるEC注文は約50%増加し、その約3分の1は注文後わずか3時間以内に完了している。スピード配送の需要は70%急増し、現在では米国内の95%の世帯で利用可能となっている。ウォルマートはスピード、精度、パーソナライズの水準を引き上げ、消費者の期待を新たに書き換えている。
コストコも同様の方向に舵を切っている。AIを初期導入したベーカリー部門では、需要予測だけで約1億ドル(約156億円)のコスト削減を実現し、これを契機に全倉庫の在庫モデリングへと応用範囲を広げた。また、コストコトラベルでは、AIを活用した新たなキュレーション機能が複数のパートナーから選択肢を抽出し、会員により洗練された直感的な検索体験を提供している。ウォルマートとコストコのこれらの取り組みは、明確な方向性を示している。それは、最大手小売業者がAIを駆使して購買の摩擦を解消し、需要を精緻に予測し、消費者が決済に至る前の段階から行動をサポートしているということである。
これこそ、真の変革が進んでいる領域だ。消費者は視覚的に商品を検索し、複数のプラットフォームを行き来しながら、正確でパーソナライズされた提案を求めている。こうした意思決定の前段階をいち早く予測できる小売業者が、競争を制するだろう。


