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2025.12.03 15:00

AIで購買体験を刷新する次世代ECの「Onton」、12億円調達で小売業界の巨人に挑む

Thomas Fuller/SOPA Images/LightRocket via Getty Images

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AIを活用したコマースが加速している。ウォルマートのEC部門は、今年前半に年換算の流通取引総額が1000億ドル(約15兆6000億円)を突破した。この急成長の背景には、AI検索機能の急速な普及、ラストマイル物流の改善、マーケットプレイス事業の拡大がある。2026年初頭に新CEOの就任を控える同社は、AI主導のリテール戦略が次なる成長エンジンになるとの見通しを示している。一方、コストコもデジタルマーケットプレイスの刷新を進め、オンラインの品揃えを拡充している。両社の動きは、消費者の購買体験への期待が劇的に変化していることを物語っている。

もはやAIが小売業を変革することは疑いようがなく、次なる焦点は、次世代インターフェースがどうなるかという問いに移っている。この潮流の中で存在感を高めるスタートアップの一つ、「Onton(オントン)」は、ベンチャーキャピタルのFootworkが主導し、Liquid 2などが参加したシードラウンドで、新たに資金調達を完了したと発表した。同社は単なるチャットボットの枠を超え、ECのあらゆる意思決定の起点となる存在として自らを位置付けている。

変容するオンラインショッピングのインターフェース

オントンの共同創業者兼CEO(最高経営責任者)、ザック・ハドソンは、EC業界で10年以上の経験を持つ。サウスカロライナ州でキャリアをスタートさせた彼は、知人の助言を機にサンフランシスコへ移住し、後に共同創業者となるアレックス・グンナーソンと出会った。プレシードラウンドの資金を確保すべく、2人は300回を超える投資家面談をこなし、180万ドル(約2億8000万円)の調達を実現する。4人のチームでありながら、オントンはわずか1年で月間アクティブユーザー数を5万人から100万人超へと押し上げた。

ハドソンは、この新たな機会の本質はシェア競争だけではなく、消費者の「検索体験そのもの」が構造的に変化している点にあると主張する。驚くべきことに、ECのユーザー体験は過去30年でほとんど進化しておらず、いまもカテゴリページとSKU単位(在庫管理における最小単位)の商品ページが情報の中心だ。LLM(大規模言語モデル)は新たな発見の基盤になっているものの、消費者はECサイト、チャットボット、そしてピンタレストのようなプラットフォームを頻繁に往復しなければならず、消費者が最終判断に至るまでの時間はむしろ長期化している。

「チャットインターフェースは、消費者の課題をむしろ悪化させている。見た目は洗練されているが、オンラインショッピングが抱える本質的な問題を解決できていない」とハドソンは語る。オントンが目指すのは、断片化する購買体験の統合だ。同社のプラットフォームは、欠落した属性を推論し、詳細の検証を重ね、EC事業者自身もまだ認識できていない関連性を学習できる。さらに、オントンのニューロシンボリックエンジンは解釈可能かつ自己学習型であり、LLMに頻発するハルシネーション(幻覚)の発生を低減することができる。

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編集=朝香実

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