無秩序な開発で消えゆく絶滅危惧種
この研究では、世界の生物多様性ホットスポット(独自の生物多様性に富みながら、深刻な脅威にさらされている地域)についても調査が行われた。これらの地域は地球の陸地面積のわずか2.4%にも満たないが、世界の植物種の半数以上と、陸生脊椎動物の少なくとも42%が生育・生息している。にもかかわらず、丘陵地における都市開発の3分の1以上がホットスポット内で行われている。もっとも大きな影響を受けているのは地中海沿岸地域で、生育・生息地の喪失率は約65%にも達した。
都市化が引き起こす生息地の深刻な喪失と分断の現状を受け、研究者らは、ホットスポットに生息する生物におよぶリスクについても調査した。対象としたのは準絶滅危惧種、絶滅危惧II類、絶滅危惧IB類、絶滅危惧IA類に分類される脊椎動物(鳥類、哺乳類、爬虫類、両生類の4群)だ。
その結果、2000年以降の丘陵地への都市拡大が、世界中で絶滅危惧種約6700種(対象種全体の70.14%)に直接的な影響を与えていることが判明した。なお4群のなかでは、鳥類(全体の81.75%)と哺乳類(全体の81.18%)が特に大きな影響を受けていた。
未来への警告
研究者らは、丘陵地への都市拡大に対する緊急の対策を講じなければ、状況はさらに深刻化すると警告する。この研究ではまた、将来の世界がたどりうる5つの「共有社会経済経路(SSP:Shared Socioeconomic Pathways)」シナリオを用い、生物多様性への影響を予測している。その結果、このまま丘陵地の開発が続けば2050年までに53カ国で、生物多様性保全の「低い」目標さえ達成できなくなる高い可能性が示された。さらに、生物多様性ホットスポットでは2030年までに10地域が、2050年までに12地域が目標未達に至ると予測されている。
同研究の報告書には、「長期的な解決策は、経済成長と生態系の回復力のバランスをとることにある」と記されている。そのなかで研究者らは、ゾーニング(土地の区分設定)の議論において代替不可能な生息地(湿地帯や原生林など)を優先的に保護することや、丘陵地の開発を制限する「禁止ライン」を設定することなどを提案。他にも、食料生産と生物多様性保全のバランスを保つ戦略として、
・ 低負荷型農業で農地内の自然環境を守る「ランド・シェアリング」
・ 農地を限定した高収穫型農業で、より広い自然生息地を残す「ランド・スペアリング」
を挙げている。また、住宅需要を満たしつつ生息地を守る手段として、グリーンベルト(緑地帯)を組み込んだコンパクトシティや、交通インフラによる環境負荷の低減を推奨。加えて、研究チームは丘陵地の都市開発リスクを示した世界地図を作成し、「優先すべき対策を示す指針」として関係者に提供している。
この研究は、平地が不足するにつれて、都市は「既存の境界内で高層化する」か、「脆弱な生態系を有する地域へ拡大する」かという選択を迫られる、という難しい現実を浮き彫りにしている。今後数十年の都市計画は、都市の未来だけでなく、丘陵地に生息・生育する数千種の生物の生存にも影響を及ぼすことになる。
※1165万ヘクタールは、サッカー場1450万面分以上に相当


