ネイチャーズ・ベスト・フォトグラフィー(NBP)は、野生の生物から、あらゆる生態系のなかで自然が見せる創造性や知性、適応性まで、自然の幅広い側面を記録する写真家たちの作品を毎年紹介している。
2025年版の受賞作も、このレガシーを受け継いでいる。中でも際立っているのは、芸術と科学の境界線を曖昧にするような作品の数々だ。
これらの写真は、自然環境を微細なニュアンスとともに伝えるものだ。昆虫の生物発光から、フラクタルな対称性を示す「つらら」まで、すべてに生物学的ストーリーが含まれている。全体で見ると、これらの自然写真は、風や水、進化と時間が、この地球における最も偉大な画家であることの証明となっている。
では、2025年のNBP受賞作から、「自然の中のアート」と呼べる、驚くべき10の写真をご紹介しよう。
1. 沼地を横切るグリズリーの足跡(米アラスカ州、レイク・クラーク国立公園)──カテゴリー最優秀賞
この写真は、グリズリー(ハイイログマ、学名:Ursus arctos horribilis)が、アラスカ州にあるレイク・クラーク国立公園の平地を歩いた時についた足跡を撮影したものだ。
グリズリーは、他の大半の大型哺乳類とは異なり、歩く際に蹠行する(足裏全面を地面につけて歩く)動物だ。つまり、クマの動きに関する研究によると、地面に足裏全面を押しつけるので、この写真のように目を引く、深く均等に力がかかった足跡を残す。
科学者たちは、クマの足が垂直方向に足を押しつける圧力の変化に関して、明確な「M字型」の圧力パターンがあることを確認している。また、前足に比べて後ろ足の方が、縦横両方向で大きな力がかかっていることも判明した。
残された足跡はのんびりしているように見えるかもしれないが、持久力と、地面の上で安定した姿勢を保つように適応した、エネルギー効率が良く力強い歩みを示すものだ。また、クマが足を踏み入れることで地表の形状が変わり、土壌を圧縮し空気を入れる役割も果たしている。
そう考えるとこの写真は、単にグリズリーが通り過ぎた場所を捉えたポートレートというだけでなく、その動きそのものが、ある種の生態学的工学と化した過程を記録したものと言える。
2. ツノトンボ(フランス南部の村ヴァンス)
真っ暗な背景をバックに昆虫がとまっている様子を捉えたこの写真では、この昆虫がとまる草と、黄金色に輝く体が一体化している。
ぱっと見はトンボのようだが、先が膨らんだ触角と羽根の模様から、実際はツノトンボ(トンボ目ではなく、アミメカゲロウ目ツノトンボ科に属する昆虫)であることがわかる。ツノトンボは肉食で、熱帯地域や南欧の一部に生息している。
ツノトンボの模様が周囲の環境に溶け込んでいるのは、決して偶然ではない。ツノトンボは、幼虫のころからカモフラージュを活用し、木の皮の下などに隠れて無警戒な獲物を狙う。成虫も、周囲の環境になじんだ色を持ち、同じような捕食行動を示す。
この写真では、ツノトンボがとまっている植物が、同じような薄茶色をまとい、日光が照りつける地中海沿岸地域の乾季の様子が捉えられている。



