この話をしたとき、彼は自宅のオフィスに座っていた。その部屋だけで、普通の家くらいの大きさだ。そして彼は、ついに話の核心に入った。彼には心から愛する子どもがいる。どんな親でも、自分の子どもにはできるだけのことをしてあげたい、自分よりもいい人生を送ってもらいたいと思うだろう。彼も例外ではなかった。
しかし、ここで彼は大きな矛盾を抱えることになる。それは彼自身も認識していた。彼がここまで成功できたのは、ひとえに長く苦しい下積みの時代があったからだ。お金の価値、労働の意義、自力で人生を切り拓ひらくことの喜びと充実感を学ぶことができたのは、その経験のおかげだ。
ただ、彼が成功した結果、彼の子どもたちが同じ経験をするのはとても難しくなってしまった。ハリウッドの大富豪の子どもたちは、近所の落ち葉を掃除してお金を稼いだりはしない。彼らが暮らすのはビバリーヒルズだ。
家の中で電気をつけっぱなしにしても、父親から電気料金の請求書を突きつけられて怒られることもない。柱で視界が遮られる席でバスケットボールを観戦しながら、コートサイドの席に座った自分を夢想することもない。彼らにとって、コートサイド席は単なる現実だ。
「私の直感では、裕福な環境での子育ては、世間で思われているよりもずっと難しい」と彼は言った。
貧しい家庭の子育ての難しさ、裕福な家庭の子育ての難しさ
「貧しさのせいで人生が台無しになることもある。しかし、豊かさが人生を台無しにすることもあるんだ。裕福な環境で育つと、野心が奪われ、誇りが奪われ、自分には価値があるという感覚が奪われる。貧乏でも金持ちでも、両極端は難しい。おそらくその真ん中あたりに、誰もが幸せになれる状態があるのだろう」
もちろん、自分の子どもの心配をする大金持ちほど、世間の同情を集めないものはめったにない。このハリウッドの男性の子どもたちは、生まれたときから豪邸で暮らし、飛行機はいつもファーストクラスだ。しかし彼は、物質的な快適さの話をしていたのではない。
彼は自らの努力で大きな名声を手にした男だ。彼の兄弟のひとりは、家業のくず鉄ビジネスを継いで成功した。また別の兄弟は医師として成功している。彼の父親は、3人の息子を立派に育て上げた。息子たちは大きな野心を持ち、この世界で何事かを成し遂げた。
つまり彼が言いたかったのは、自分のように何億ドルもの資産を持つ親は、故郷のミネアポリスの厳しい環境で子育てをした父親と同様に、子育てで成功するのは難しいということだ。
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