──庭崎さんは23年11月に和光の代表取締役社長に就任、翌7月にアーツアンドカルチャーをオープンされました。この場をつくるに至った背景を教えていただけますか。
庭崎:私は01年からセイコーウオッチで主力ブランド「グランドセイコー」「セイコー」の商品企画などグローバルマーケティングを担当していましたが、2010年代前半まで、日本の文化への注目はそこまで高くなったと記憶しています。世界の人がもつ“メイド・イン・ジャパン”のイメージは主に、性能やコストパフォーマンスが良いというもの。そこからだんだんと、日本独自のストーリーや考え方が「西洋と違って面白い」と評価されるようになっていきました。
村瀬:そうですね。僕がsuzusanを立ち上げたのは08年で、リーマン・ショックが起きた年でした。当時は日本から海外へ進出しようというより海外から撤退する話が多く、日本の伝統を改めて見直して、日本の価値を世界へ発信していこうという風潮はほとんどなかったように思います。
そんな時代からコロナ禍を経て今までしがみつきながらやってきて、このところの日本の価値を見直す風潮は僕たちにとっての追い風になっています。

庭崎:グランドセイコーも2010年代後半から、それまでは前面に打ち出していなかった日本的なブランドの考え方を打ち出すマーケティング方法へと舵を切りました。
そうした経験を経て、23年11月にセイコーグループ傘下にある和光の代表取締役社長に就任。銀座で毎日を過ごしていると、外国の方が日本の美意識や文化を高く評価していることを身をもって感じます。
銀座4丁目の交差点角地に、和光の創業者が1932年に建てたこのビルで商売をさせていただいている私たちは、単に物を売るだけはなく、日本らしさやクラフトマンシップ、文化的、感性的な側面を発信すべきではないか。そこにいるだけで日本の良さを感じられるような場を提供したいと思い、前社長との議論を重ねて具現化したのがアーツアンドカルチャーです。銀座がシーンと静まり返ったコロナ禍も、転換のきっかけになりました。

季節の移ろいや自然との付き合い方から生まれる日本の美意識や習慣、何百年と継承されてきた伝統や技術、創作の追求に費やされた時間、未来への思い……和光が大切にする「時」への想いを込めて、「時の舞台」をコンセプトに掲げています。
村瀬:初めて足を踏み入れた時の感動は未だに覚えています。僕は帰国の度に足を運び、海外から友人や知人が東京を訪れる際には、東京で訪れるべきスポットとして紹介しています。


