表参道・銀座に並ぶ世界的ラグジュアリーブランドの店舗。その優美な空間の裏には、原案デザインやスケッチなどの本国デザインを日本の“場”に適した形で具現化していくローカルアーキテクトの存在がある。ブランドの世界観を守りながら、いかに日本の現場で心地よい空間を生み出していくか。2人のローカルアーキテクトが「空間が創る、情緒的経営価値」の最前線を語り合った。
世界的ラグジュアリーブランドの店舗設計で国内トップシェアを誇るGARDE。ブランド哲学を空間に落とし込む「情緒的経営価値の創造」をキーワードに、リピート率8割の圧倒的な信頼を得ながら業界内で確固たる地位を築いてきた。その成長を支えているのが、本国デザイナーが描く店舗空間デザインを、日本の法規制や施工条件に適合させながらカタチにしていく「ローカルアーキテクト(LA)」たちだ。
2014年にGARDEに入社し、数々の世界ブランドの店舗設計を手掛けてきた土屋由香は、「デザイナーの理想を叶えるべく、見えないところで奔走する“究極の調整役”」と自らを定義する。
「本国デザイナーから届いた平面図、パース図を現実に置き換え、法的なチェックやレギュレーション(建築基準)チェックを進めて基本図に落としていくのがLAの役割です。求められたデザインを具現化できるように、あらゆる可能性を探っていくプロセスこそ私たちの腕の見せ所。例えば、店内空間の一部を『まん丸にしたい』という要望があり実際には難しかったとします。できないというのではなく、『オーバル(楕円形)ならどうか』など、デザインからできるだけ逸脱しない形で提案していけるかどうか。どんな空間を作りたいのかを理解し汲み取って代替案を探し出していきます。そうした根気強いやりとりを重ねることが、お客様との信頼関係を築いていくのです」(土屋)
前職の大手内装会社でも多くの世界ブランドの店舗設計を手掛けてきた土屋。GARDEに来たのは、フラットな組織ゆえ、一人に任される業務範囲の幅に魅力を感じたからだった。

「LAという役割でありながら、いち営業担当のように予算を見ながら、施工者と一緒に店舗の完成までを見届けることができます。案件全体のコストや納期を管轄するプロジェクトマネージャー(PM)とは常に意見交換しながらタイムリーな連携ができる。コンパクトな組織規模ゆえに意思決定が早く、本国デザイナーの要望とこちらの提案がパチンとハマったときの気持ちよさが、仕事の醍醐味ですね」(土屋)
2024年12月にジョインした中澤敬史は、「世界の一流ブランドほぼすべてに携わっている」GARDEの実績に惹かれて入社を決めた一人だ。前職は国内の設計事務所で、プレミアム酒類ブランドの海外進出プロジェクトを手掛け、アメリカでの生産施設設計を担当してきた。いわば“本国デザイナー”の立場にいたところから、彼らの思いを汲み取る逆サイドに立つことで、これまでの経験が生きるのではないかと考えた。
「いちブランドに長く携わってきた前職と比べ、GARDEではさまざまな経営理念やブランドフィロソフィーを持つお客様の仕事を手掛けることができます。それぞれの考え方が空間建築や内装にどう反映されているのかを学びたいと思いましたし、前職でデザイン意図を伝える側だったからこそ、今度はその意図を実現するスキルを磨きたかった。担当したブランドや企業のことはできる限り調べ尽くし、誰よりも私自身がそのブランドのファンになっていきます。デザインの背景にある思いを想像し、一緒に作ろうという思いで動けることが大切だと思っています」(中澤)
入社して1年未満で、すでに3大コングロマリット傘下のラグジュアリーブランドを担当している中澤。メンバーを信頼し任せる背景には、「お客様と直接やりとりができるポジションに就き、実務経験を積むことが何よりも学びになる」というGARDEの思いがある。
「実際に、店舗空間が完成し販売スタッフが入って動き始めると、それまで目に入らなかった改善点が見えてくることがあります。例えば、お客様の動線を考えればドアの位置を変えたほうがよかったと気づかされたり、販売スタッフから『ここに棚があれば使いやすそう』と言われたりしたこともあります。完成したものをすぐに変えることは難しいものの、現場から得た気づきや声を知見として、本国デザイナーに伝えることはできる。経験を積めば積むほど、今後の提案に生きていくだろうと感じています」(中澤)
完成ぎりぎりまでデザイン変更の要望が届き、何度もコミュニケーションを重ねて実現可能なラインを見出していくのもLAの日常だ。「できる限りどこまでもデザイナーに寄り添う」立場でありながら、ブレずに持っているのが消費者目線だと土屋は言う。
「店舗空間を訪れ、購入を決めるのは消費者の皆さんです。ブランドの世界観を感じていただくことはもちろん大切ですが、心地よくなければ買い物はしないでしょう。商品の魅力が引き出され、この店舗だから購入したいと思っていただけるような場を作っていきたい。日本で調達できる建材、土地や気候の特徴などあらゆる要素を加味しながら、心地よい空間を生み出していくことに、妥協せずに向き合っていきたいと思っています」(土屋)
世界水準のESG経営が、信頼の礎に

世界のトップブランドと仕事をしていく上で、GARDE自体がサステナブル経営に先進的に取り組んでいることもまた、パートナーシップをより強固なものにしている。2024年5月には、世界13万社の中で上位15%に付与されるEcoVadisシルバー評価を取得。これは、環境、労働と人権、倫理、持続可能な調達に対する企業の行動と今後の取り組みを認定する世界的な制度だ。環境に配慮した建材・素材への各ブランドのニーズが高まる中で、本国デザイナーへこちらから提案することも増えているという。
「自社で世界水準のESG経営を実践しているからこそ、お客様のサステナブルへの要求を理解し応えていけるのだと思っています。今後はゴールド、さらにプラチナ評価取得へと上位を目指し、一流ブランドの皆さんと同様の高い視座に立っていきます」(土屋)
2025年1月には、NYの一等地・チェルシーに300平米弱のギャラリー「GOCA」をオープンするなど新たな取り組みにも意欲的なGARDE。「事業とのつながりを見出し行動に移していくのがGARDEらしい」と、中澤はその広がりに期待する。
「一流ブランドの店舗空間には、必ずと言っていいほど、ローカルのアーティストが手掛けた絵や彫刻が置かれます。アーティストとのコラボレーションを通じて、ブランド力をさらに高めていく部分があり、アートとのかかわりはとても深い。既存ビジネスとの関連から事業の幅を広げていこうというチャレンジ精神はGARDE特有のカルチャーでしょう。その姿勢に刺激をもらいながら、私も、LAとして得た気づきを事業成長につなげていきたいですね」(中澤)



