一般の認識とは裏腹に、燃料価格は全米規模で上昇している。米自動車協会(AAA)によると、全てのグレードのガソリンとディーゼル燃料が値上がりしており、特にディーゼル燃料は全国平均で1ガロン(約3.8リットル)当たり前年比25セント(約39円)という顕著な値上がりを示している。ガソリン価格の動向に関する議論は、州間だけでなく個々の州内でも生じ得る大きな地域格差が原因で起こることがある。例えば、南部テキサス州では、ブルースター郡では1ガロン3.49ドル(約546円)であるのに対し、ハリス郡では2.29ドル(約358円)と、同一州内でも1ドル以上の価格差が生じている。とはいえ、ガソリン価格は全国的にやや上昇したのみで、比較的安定した状態を維持している。
一方、ディーゼル燃料価格に関する状況は著しく異なっている。米国では通常、夏季にディーゼル燃料や家庭用暖房油などの留出燃料の在庫を増やし、冬季の需要増加に対応する。だが、今年は在庫を十分に蓄えることができなかった。米エネルギー情報局(EIA)は、軽油在庫が今年末までに過去10年で最低水準に達すると予測している。この状況は、ウクライナで進行中の紛争がロシアのエネルギー施設に影響を及ぼし続けていることから、米国から欧州への輸出需要が増加したことに加え、前年に比べて製油所の能力が低下し、処理量が世界の需要を満たしていないことに起因している。在庫水準が不十分なため、これらの製品の市場価格は高止まりすると予想される。EIAは、2026年にも改善は見込めず、来年末の在庫水準は今年よりもさらに低くなると予測している。
電力価格に関する最近の動向にも懸念が残る。EIAによると、米国の電力価格の上昇率は2022年以降一貫してインフレ率を上回っており、今年は地域によって4~10%の範囲で値上がりしている。電力価格と電気料金は異なる点に、留意することが重要だ。電気料金の請求書には送電や配電などの追加費用が含まれており、これらも全国的に大幅に上昇している。電気料金の上昇は、消費者物価指数(CPI)を300%上回っているとの報告もある。こうした増加の要因としては、人口増加や産業需要の拡大、特にデータセンターに起因する需要の増加に十分に対応できない老朽化した電力網などが挙げられる。また、天然ガス価格の上昇によって料金がさらに上昇するとみられる。EIAは、発電所が購入する天然ガスの価格が前年比で37%上昇すると予測している。発電所の燃料費が増加すると、この上昇分は商業顧客と住宅顧客の双方に転嫁されることになる。この値上げは家庭の電気代だけでなく、さまざまな産業の電力支出の増加により、商品やサービスの価格にも影響を与えると考えられる。
今後の主な懸念事項は電力価格だけでなく、電力系統の信頼性にも及んでいる。電力需要はほぼ20年間横ばいだったが、現在、電力消費量は年間2%を超えるペースで増加している。この数値は一見控えめに見えるかもしれないが、このような持続的な増加は、発電設備に大きな課題を突きつけている。送電網の強化を目的とした計画は、完了までに数年を要することが多い。現在の予測では、需要を満たすためには年間約1万2000キロの新規高圧送電線が必要だとされているにもかかわらず、現在建設されているのは年間わずか560キロに過ぎない。需要の増加に合わせて電力網が拡張されない場合、特に極端な気温の時期に停電や電圧低下が増加する危険性がある。



