業務の複雑化と慢性的な人手不足。多くの企業が直面する「限られたリソースで成果を上げる」という課題に対し、注目を集めているのが生成AIの活用だ。しかし、その可能性が語られる一方、現場で十分に活用しきれている企業はまだ多くない。
そんななか、AIを自在に操り、複数のプロジェクトを高い水準で同時進行させている人がいる。ソフトバンクグループSB C&S株式会社の五味愛子だ。彼女は、急速に進化を遂げる生成AIを、いかに日常業務に取り込み、成果につなげているのか。その実践の裏側を聞いた。
「業務効率を改善させたい」「社内コミュニケーションを活性化させたい」「クラウドサービスを安心・安全に使用したい」など、ユーザーの悩みを解決に導くオウンドメディア「Microsoft 365相談センター」。Microsoft 365でこんなことまでできるのか、といった内容をわかりやすく発信しているのだが、登場するキャラクター・五味ちゃんが親しみやすさに貢献をしている。
このキャラクターの生みの親であり、モデルであり、メディアの立ち上げからコンテンツの企画、運営を一手に担っているのが、SB C&S株式会社(以下、SB C&S)の五味愛子である。
「SB C&Sは、ソフトウェアの開発ベンダーと、リセラーと呼ばれる販売代理店をつなぐハブの役割を担うディストリビュータです。エンドユーザー企業にソフトウェアを販売するリセラーに対して、わかりやすく製品情報を提供するとともに、販売拡大のためのさまざまな販売支援を行っています。
数千にのぼる取扱商品・サービスのなかから、まずMicrosoftの製品を知って魅力を感じてもらい、そして選んでもらうために注力している施策のひとつがコンテンツマーケティングです。なかでも、オウンドメディアのMicrosoft 365相談センターで展開しているシリーズ企画『五味ちゃんが徹底解説!』は、キャラクターが漫画や図解を交えながら製品の魅力をわかりやすく紹介する内容で、特に高い評価をいただいています」
五味が課長を務める企画課では、オウンドメディアにはじまるコンテンツマーケティング以外にもイベントやウェビナーの企画運営、リセラー向けの販促支援の企画や仕組みの建て付け、社内外の教育施策の企画・実施、キャンペーンの企画と建て付け、仕組みづくり、販促費の運用管理まで、多岐にわたる業務をこなしている。
「具体的には、年間1700名以上にご参加いただくウェビナー、全国7拠点で行うリアルイベント、リセラーさまの営業や技術担当者のトレーニングコンテンツの企画、社内勉強会の企画、キャンペーンの企画建て付け、販促費の運用管理まで、業務は非常に多岐にわたります」
企画課は少数精鋭チーム。スピードと品質の両立が求められるのはもちろん、課全体のマネジメントをしながらプレーヤーとしても膨大なタスクをこなさなければならない。そこでフル活用しているのが生成AIである。
Microsoft 365 Copilotにより
業務効率が飛躍的に向上
多忙を極めていたなかで生成AIを活用し始めたのは、2024年1月のMicrosoft 365 Copilot(以下、Copilot)リリース直後。Copilotの啓蒙と拡販というミッションもあったことから、まず自ら試していくことにした。最初に使い始めたのはチャット機能。わかりやすいコンテンツを作成するための情報収集と原稿作成のための"壁打ち相手"として活用を始めた。
「リセラーと呼ばれる販売代理店の営業担当者は、マイクロソフトの製品も含めて数多くの製品を扱っています。そのなかで、マイクロソフト製品を指名買いしてもらうためには、わかりやすい言葉で魅力を伝えることが大きなポイントになると考えています。しかし、情報を収集してそれらを噛み砕きながら、Webサイトやブログ、ホワイトペーパーなどのコンテンツを作成するには、従来かなりの時間を要していました。
そこでCopilotを使ったところ、ほんの一瞬で、情報を収集して、専門用語を分かりやすく言い換えながら、自分の代わりに文章の下書きを書き上げてくれる。これは使えると感じました。そこから、オウンドメディアの記事制作、ホワイトペーパーなどのコンテンツは基本的にCopilotと毎回壁打ちしながら情報収集、構成決め、原稿のたたき台作成まで取り組むようになりました。他にもイベントやセミナーのテーマ決めやリード文の作成、会議の要約、タスク整理、htmlの生成補助など活用する範囲を広げていきました。
さまざまなサービス・プランが存在するなかで、比較表みたいなコンテンツは社内外に需要がありますが、そうしたコンテンツ作成は特に便利だなと感じますね。Copilotに収集してもらった情報とソースを確認しながら、アウトプットのスタイルを相談して決めて、そのままPower Pointに出力してOneDriveに保存してもらう、みたいなこともCopilotなら一気通貫して行えます」
その成果は見張るべきもので、まず作業効率が大幅に向上したという。例えば、ホワイトペーパー制作では、アイデア出しから狙いたいペルソナに沿ったテーマ決め、情報の収集、構成、原稿のたたき台作成までのすべての段階でCopilotを活用。すでにコンテンツ制作などでAIを活用している企業も増えているからこそ「AIで作ったままを出すのではなく、最後は自分の言葉に変えて伝えることを意識」して、文章の推敲は五味自身が行っている。それでも、従来だと1~2週間かかっていたものが今では2~3日程度で完成するという。同じようにオウンドメディアの記事制作のアイデア出し、SEO関連キーワードの洗い出し、構成、文章のたたき台にも使用しているが、こちらも2~3日かかっていた制作が半日程度でできるようになった。元々マルチタスクを得意としていた五味だが、Copilotによって、そのスピードがけた違いに早くなったのだ。しかもCopilotの場合、Officeドキュメントと連携しているため、Excel、Word、PowerPointなどの資料作成において真価を発揮する。さらに、五味は有料版のCopilotを使用すると、その活用範囲は大きく広がるという。
例えば、外部業者にコンテンツ制作を委託するというシーンでは、作りたいコンテンツに関連するWeb上の外部情報に加え、社内のSharePoint、Teams、Outlook、OneDriveにある関連資料を横断的に検索。さらに、対話しながら外部業者に制作を委託するうえで必要な要件や構成案を作成し、WordやPowerPointでドラフトを自動生成、OneDriveに保存。Copilotだからこそ、ここまでのプロセスを一気通貫で行える。
他にも、社内のSharePointやOneDriveに保存されたExcelの過去の売上データを分析してトレンドをグラフ化、主要顧客別の分析レポートをWordに出力する、といったような使い方や、Outlookで顧客情報を参照しメール文面を自動生成するといった使い方など、さまざまな活用方法がある。いずれも、Officeを提供するマイクロソフトのサービスだからこそシームレスに実現することだ。
また最近では、2025年6月に発売された「リサーチツール」と「アナリスト」をよく利用するようになったという。
「例えば、『競合他社のマーケティング動向をリサーチしてください』と指示を出すと、数分でWebの情報だけでなく、社内のSharePoint等に保存された関連資料も同時に検索し、競合他社や自社の強み・弱み、キャンペーンやイベントの実施事例を洗い出して要約、箇条書きやレポート形式で整理してくれます。さらに『競合のSNS施策も調べますか?』や『過去の社内キャンペーンとの比較を追加しますか?』『グラフやタイムラインを挿入しますか?』といったように、自分自身では見落としていた内容や視点での提案をしてくれる。リサーチやレポーティング作業の時間が大幅に短縮されたので、そこで得たデータを元にしたクリエイティブなアイデア、ネクストアクションを考え、何をやって何をやらないといった選択・決断に時間を使えるようになりました」

自分に代わって仕事をこなしてくれる
エージェント化こそが真のAI活用
Copilotを使いこなしてマルチタスクを実践している五味だが、さらに業務の生産性を向上させているのが生成AIのエージェント化である。生成AIは、都度与えられた指示に従って情報やコンテンツを創り出せるが、AIエージェントはより自律的に環境を認識して、判断を行い、行動するという特徴がある。Copilotも、エージェントプラットフォームのCopilot Studioを使用することで、カスタマイズしたエージェントを構築できる。
「2025年7月頃、ソフトバンクグループが全社員に対してAIエージェントを1人100個作らせるというプロジェクトが話題になりましたが、インパクトがあったと実感しています。自分専用にチューニングしてエージェント化されたAIは、自分のことを深く理解した上で、“会話の相手” というより “仕事の相棒” のように動いてくれるんです」
単なるAIが『質問に答えるツール』だとすれば、AIエージェントは『目的を共有して一緒に動くパートナー』。自分の業務の文脈や判断基準、チームの目指す方向まで理解したうえで、提案や調整まで自走してくれる。 まさに “自分の分身がもう一人いる” という感覚に近いという。
「さらに、 MicrosoftのCopilot Studioを使えば、この“自分専用のAIエージェント”を簡単につくることができます。Copilot Studioでは、自社の業務データやナレッジ、ワークフローとつなげることで、“自分たちの現場に最適化されたエージェント” に進化させることができます。
例えば営業チームなら、過去の商談履歴や売上データを把握したうえで、社内外の情報を収集して次の打ち手を提案書のたたき台に落とし込むことができます。さらに、商談の議事録やTeamsチャットを参照して次のアクションプランを提案、自動リマインドしてくれる“営業支援の個人秘書”のような使い方も可能です。まさに、個人の業務内容や志向性などを知り尽くした優秀なパートナーと言えるでしょう。当然、仕事の量と質の向上に貢献します」

つまり、生成AIでも十分な業務の効率化や生産性向上につながるが、真の実力を発揮するのはエージェント化してからなのである。しかし、生成AIにあまり触れたことがない人にとっては、自身の業務に活かせそうか、全くイメージがわかず、導入に二の足を踏むケースがあるのも事実。生成AIビギナーに対して五味は次のようなアドバイスを送る。
「セミナーなどでよく質問をいただくのが、生成AIが必要かわからない、どう役に立つのかわからないということです。確かに使ったことがなければイメージしづらいので、まずは無料のものからでも良いので触れてみる・使ってみるのも手です。使っていくなかで『こんな使い方ができるのか』とわかり、 本当に大したことのないことでもAIに任せてみると今まで以上に効果が出せたり。大げさに思われるかもしれませんが、私は生成AIを使い始めてからインターネットで検索することが一切なくなりました。なにか調べたいことがあるときは、Copilotにすべて尋ねるのです。そうすれば自分が欲しい情報を適切に収集し、更にCopilotがその次にすべきアクションまで提案してくれる。もはや"ググる"だけで終わる検索では物足りません。しかし、ひとつだけ注意したいのは、生成AIがもっともらしい誤情報を生成するハルシネーションを起こす場合もあるということ。提示された情報が正確かどうかを見極めるリテラシーは重要です。そうしたリテラシーを育むためにも、まずは従業員一人ひとりが実際にCopilotなど生成AIを使ってみる。その過程でどこまで生成AIに任せ、どこから自分の判断をしていくのかも見えてくると思います」
ところで、巷ではよく「生成AIが仕事を奪う」と言われている。しかし、実態はその逆だと五味はいう。
「マイクロソフト業務執行役員の西脇資哲さんがおっしゃるように、『生成AIを使いこなす人が仕事を奪う』のだと私も思います」
もはや生成AIなしでは競合相手に大きな後れをとってしまう時代に突入していることは間違いない。
日本マイクロソフト株式会社
「マイクロソフトの AI」
https://aka.ms/AI-Solution-Forbes
SB C&S株式会社 Microsoft 365相談センター「五味ちゃんが徹底解説!AI革命編」
https://licensecounter.jp/microsoft365/download/gomichan-microsoft365-ai/
ごみ・あいこ◎SB C&S株式会社 ICT事業本部 クラウドプラットフォーム推進本部 クラウドプラットフォーム推進統括部 販売推進部 企画課 (課長)
2012年よりMicrosoftビジネスに携わり、現在は販売代理店様を通じたMicrosoftクラウド製品(Microsoft 365/Azureなど)の販売促進およびマーケティング施策の企画・運営を担当。 CSP(Cloud Solution Provider)ビジネスの黎明期より、販売代理店支援や市場拡大に向けたさまざまなプロモーション活動に従事。「五味ちゃんが徹底解説!」シリーズでは、“Microsoft 365/Azure 伝道師・五味ちゃん”の中の人として、クラウド製品の価値を分かりやすく伝えるコンテンツを企画・発信。Microsoftクラウドの魅力を“現場目線で分かりやすく・楽しく伝える”ことをモットーに、販売代理店様とともにクラウドビジネスの拡大や日本企業のDX促進に取り組んでいる。



