映画

2025.11.30 14:15

クマとヒトの関係に重ねられる”女の闘い”|「リメインズ 美しき勇者(つわもの)たち」「デンデラ」

seread / Adobe Stock

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このところ、報道されない日はないと言っていいくらいの「熊害(ゆうがい)」。死者、負傷者が相次ぎ、大きな社会問題となっている。高度経済成長期は個体数が数百頭と言われ絶滅が危惧されていたツキノワグマは、やがて生物多様性維持の観点から法的な保護管理の対象となり、捕獲や駆除も計画的に行われてきた。結果、この60~70年の間に個体数は環境省調べで4万頭を越した。

クマに限らず生物の繁殖状況は、最初は徐々に増えていき、ある閾を超すと爆発的に増加するという。他、気候変動による食物の減少、過疎化で生じた耕作放棄地へと行動範囲が広がったことなど、複数の原因が絡み合って近年被害が多発するようになった。2024年には「指定管理鳥獣」に指定され、駆除対策が強化されている。

さて、クマが脅威として登場する映画は、洋画では『グリズリー』(1976年)に始まり、ホラー、スリラー、パニック系が多い。日本では11月公開予定だった『ヒグマ!!』が、昨今の状況に鑑みて公開延期という事態となっている。

今回は日本映画から最初に、マタギとクマの死闘を描いた『リメインズ 美しき勇者(つわもの)たち』(千葉真一監督、1990)を取り上げ、姥捨山のモチーフにクマが密接に関わってくる『デンデラ』(天願大介監督、2011)との比較を試みたい。

『リメインズ 美しき勇者たち』は、大正4年、北海道苫前町で起こった「三毛別羆事件」に題材を取った作品だ。この事件は、エゾヒグマが開拓民の集落を二度襲撃し死者7人、負傷者3人を出した「日本史上最悪の熊害」とされている。本作は舞台を「北国」(人々の台詞から東北のどこかと思われる)とし、「アカマダラ」と名付けられた女しか食わない巨大な人喰いグマが登場。マタギの青年・鋭治(真田広之)と、家族をアカマダラに殺された幼馴染のユキ(村松美香)との関係を中心に、度重なるクマの襲撃とマタギたちの闘いが描かれる。

マタギとはクマやシカの狩猟で生計を立てる人々で、その発祥は平安とも鎌倉とも言われている。編笠を被りカモシカの毛皮をまとい、ニッカボッカのようなズボンに脛当てをつけ、ツマゴと言われるワラの履き物という彼らのスタイルは、ジブリアニメ『もののけ姫』のアシタカの装束でも参照されている。

マタギは自然に対するさまざまな知見や儀式など独特の文化を持ち、集団で狩猟を行い、「山神様」を信仰している。山神様は女性神なので、山に女性を入れるとヤキモチを焼き猟の失敗や不幸をもたらすため、猟に際しての入山は女人禁制だ。映画でもアカマダラ征伐に行くマタギたちに、ユキが「連れてって」と懇願し「女は山に入れない。山の掟だ」と断られる場面がある。

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文=大野左紀子

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