ヘルスケア

2025.12.03 07:15

脊髄損傷の常識覆す 手術不要で歩行機能を取り戻す新技術の効果

プレスリリースより

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事故などで脊髄が傷つき歩けなくなった人に、コンピューターを介して腰に電気信号を送ることで、再び歩けるようにする新技術が開発された。これまでも体内に電極を埋め込んで人工的に神経回路を構築する方法はあったが、本技術は体への負担が少なく安全で、より多くの人が利用できる画期的なシステムだ。

東京都医学総合研究所、脳機能再建プロジェクトの西村幸男プロジェクトリーダーらによる研究グループは、神経回路が寸断されて動かせなくなった体の部位に、機能を失った神経回路を迂回して信号を送る「人工神経接続システム」を開発した。

これは、無線筋電図システム、コンピューター・インターフェイス、磁気刺激装置で構成されている。自由に動かせる部位に筋電センサーを貼り付け、目的の部位をコントロールする神経回路の近くに磁気刺激を与える器具をあてるだけなので、手術で電極を埋め込むといった大掛かりな処置は必要ない。

今回発表されたのは、下肢が麻痺した人の残された神経回路に磁気刺激を与え、再び動かせるようにした実験の成果だ。研究グループは、脊髄損傷から半年から1年が経過し、通常のリハビリでは機能回復が見込まれない慢性期の人に参加してもらい検証を行った。

実験では、被験者を台の上に横向きに寝かせ、台から両脚を出して上から吊るして自由に動かせるようにした。そして無線筋電センサーを手に貼り付け、コンピューター・インターフェースと磁気刺激装置で電気信号を磁気刺激に変換し、腰にあてた器具から腰髄に磁気刺激を与えた。

被験者がリズミカルに手を動かすと、寝たままの状態で、まるで歩いているかのようなステップ運動(足踏み)が始まった。手の動かし方やリズムを調整することで、歩幅や歩行ペースをコントロールできる。これを続けるうちに、とくに頸髄損傷や胸髄損傷といった腰から離れた部分に損傷がある人は、運動が次第に大きくなっていくことがわかった。

驚くべきは、少しでも自力で脚が動かせる「不全麻痺」の人の場合、この運動を続けることで、装置を使わなくても脚を大きく動かせるようになったことだ。わずかに残された脳と腰をつなぐ神経が強化され、運動機能が改善された可能性があるという。

つまり、この装置を使ってステップ運動を続けることで、装置を使わなくても再び歩けるようになることが期待されるのだ。簡単な装置なので、もしよりコンパクトな形で実用化されたなら、整形外科のリハビリ室や自宅でも簡単に使えるようになりそうだ。早期の実用化が望まれる。

プレスリリース

文 = 金井哲夫

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