アジア

2025.12.04 13:30

技術覇権をめざす中国その光と影:地経学研究所の一葉知秋

Hamara / Shutterstock.com

中国経済には確かに潜在的な強さと速効性がある。中国はおよそ14億の人口と欧州連合(EU)の2倍以上となる領土を有し、巨大な市場と規模の経済を生かした価格競争力を得られるだけでなく、レアアース(希土類)など重要鉱物も産出することができる。多くの優秀な労働者と巨大な市場、挑戦を許容する風土があり、「チャイナ・スピード」と呼ばれる新しい技術を社会実装していくスピードも速い。こうした強さが自信につながり、施策に「大国の論理」がにじむことも少なくない。例えば10月に中国がレアアース輸出管理を再強化し、中国国外の組織や個人が中国原産などのレアアース関連製品を輸出する場合にも中国の両用品輸出許可証を取得するよう求めたことは、中国がレアアース精製の多くを独占的に担っている現状からすれば、世界の関連製品輸出入を中国政府が「許可」することを含意しかねない。10月30日の米中首脳会談を受けて一年間の施行停止となったが、事態は再燃し得る。

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実際には中国国内では、人口減少や不動産問題、セーフティネット不足などの構造的課題が深刻化している。これらの課題は国内消費に影響して、内需主導型経済への構造的転換も遅々として道筋が立たない状況だ。だが習近平政権は、当面は、周辺諸国への輸出を強化することでトランプ政権からの関税圧力を相殺しつつ、供給サイドでの「強さ」をさらに強化する方針を継続するようだ。そこには技術革新が社会課題解決につながるという「技術信奉」の思考もあるだろう。結果的に、内需不足と過当競争や過剰生産とが相まって生じる周辺諸国へ価格の安い製品が流出する「デフレ輸出」や中国のサービス産業の対外進出は継続することが見込まれる。

こうした習近平政権の対応は国内の社会問題への対応よりも対米競争に勝つことを優先させる意思の表れであり、おそらくそれは、競争に集中しなければ行き詰まるかもしれないという現実的な判断と表裏一体である。そして中国が対米競争を主眼に置き続けるかぎり──中国の情勢認識からすればおそらく2035年ごろまで──驚異的な技術革新とその実用化は継続しながらも、中国社会のひずみは深まり続けるだろう。


江藤名保子◎地経学研究所 上席研究員/中国グループ・グループ長。専門は日中関係・東アジア国際情勢。慶應義塾大学経済部政治学科卒業後、スタンフォード大学大学院修士課程、慶應義塾大学大学院博士課程修了。日本貿易振興機構アジア経済研究所副主任研究員、北京大学国際関係学院客員研究員などを経て現職。

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