シリコンバレーで、いま「特化型マイクロVC」(小規模だが専門性が高くアーリーステージに特化したVC)が存在感を高めている。老舗のメガファンドが肥大化・レイターステージ化する中で、「専門性」「フォーカス」「ネットワーク」を武器に投資を行うVCが、優秀な創業者から選ばれる時代になっている。
その潮流を、製造テックという領域で体現しているのが、Omni Venturesの共同代表パートナー、Simon Lancaster氏とSabrina Paseman氏だ。Apple(アップル)出身の2人は、製造業・ハードウェアの現場で培った知見を生かし、AIやロボティクス、サプライチェーン領域の超アーリーステージ企業に投資をしハンズオンの支援を行っている。
両氏は今年『シリコンバレーVC最前線:特化型マイクロVCの台頭(原題:Unlocking Alpha: The Rise of Niche VC)』を執筆し、特化型マイクロVCの存在意義とインパクトについて解説した。今回、日本語版の出版に伴い、両氏にインタビューを行った。
「メガファンド vs 特化型マイクロVC」──米VC業界はいま何が起きているのか
吉川絵美(以下、吉川):アメリカを中心としたベンチャーキャピタル(VC)のランドスケープの変化をどう見ていますか?
サイモン・ランカスター(以下、サイモン):ここ数十年で、VC業界はいくつかの「波」を経験してきました。1970年代の黎明期、VCは半導体やバイオなど特定産業出身の専門家が、自分の強みを生かして投資する「スペシャリスト型」から始まりました。ところが80〜90年代にかけて年金基金や大学基金がLPとして参入し、「ベンチャーキャピタル」というアセットクラス自体が急拡大。ドットコムバブルや2000年代のSaaSブームを通じて、VCには巨額の資本が流れ込みました。
その結果生まれたのが、数十億ドルを運用しレイターステージで投資をするメガVCと、アーリーステージに投資をする小規模VCの大量増殖です。この小規模VCは二つのタイプに分かれます。ジェネラリストで差別化されておらず、「流行りもの」に飛びつくタイプの小規模VCと、自社の確固たる専門領域に集中し、独自のネットワークとブランドをもつ「特化型マイクロVC」です。優秀な起業家であればあるほど、差別化された価値を提供できる特化型マイクロVCを創業期から選ぶようになっています。
吉川:資本がコモディティ化した今、起業家から投資家に求められる付加価値の水準が年々高くなってきているのを感じます。深い実務経験(オペレーター経験)をもつVCの創業者が増えてきている一つの理由ですね。



