極地ほど、生命に過酷な試練を課す自然環境はない。気温は氷点下をはるかに下回り、ハリケーン並みの暴風が吹き荒れ、数カ月にわたって、日照はないも同然となる。だが、これほどの極限環境においても、進化がつくりあげた生物たちは、ただ命をつなぐだけでなく繁栄を続けてきた。
2025年の国際自然写真コンテスト「ネイチャーズ・ベスト・フォトグラフィー(NBP)」には、目を見張るような極地の写真が数多く寄せられた。なかでも、以下に紹介する4作品は、審美的・生物学的観点から、特に際立っている。
息を呑むような冬景色の裏で、何が起こっているのかを解説していこう。ここでは、動物たちに負けず劣らず、雪と氷も主人公だ。
1. 吹雪の中のホッキョクグマ(カナダ、ハドソン湾)
この光景は、生物学的に見ると、進化というエンジニアがつくりあげた高度な断熱性能を証明するものだ。ホッキョクグマ(学名:Ursus maritimus)は、2層からなる毛皮と、厚さ10cmもの皮下脂肪層を備えている。
ホッキョクグマはしばしば誤って「シロクマ」と呼ばれるが、純白に見える彼らの毛は、実際には透明で、光を拡散反射する。これにより、雪と氷の世界で完璧にカムフラージュできるのだ。毛の下にある皮膚は黒く、太陽熱の吸収に役立っている。
2018年に『サイエンス』誌に掲載された論文の説明にあるように、ホッキョクグマの代謝面での適応は並外れている。風が吹き荒ぶ酷寒のなかでさえ、ホッキョクグマは激しい身体運動をすると、むしろオーバーヒートを起こすおそれがある。このことは、熱とエネルギーの保存が、厳しい寒さのなかでの生存にいかに不可欠であるかを物語っている。



