4. オスのヘラジカ(米ワイオミング州、グランドティトン国立公園)
この写真は、写真家がセットしたらしいカメラの背後に、オスのヘラジカが立つところを捉えた、ユーモラスで興味深い構図になっている。巨大な草食動物であるヘラジカが、本来の生息環境のなかで、臆することなく人工的な世界に踏み入り、フォトボム(わざと映り込んで撮影を妨害する行為)に興じている。
ヘラジカ(学名:Alces alces)は、寒帯林と雪に覆われた湿地の象徴であり、寒冷地仕様の生理的特徴をもつ。長い脚は、深い雪をかき分けて進むのに適しており、分厚い毛皮は空気を捉えて断熱効果をもたらす。それに、ヘラジカの鼻は驚異的だ。
ヘラジカが長い冬に耐えられるのは、哺乳類界でも屈指の特殊化した鼻によって、熱損失を調整しているおかげだ。ヘラジカの鼻腔は熱交換器として機能する。つまり、吸い込んだ冷たい空気を、肺に到達する前に暖ため、吐き出す空気から熱を回収する。こうした設計は、氷点下の環境のなかで、エネルギー消費を抑制する効果をもつ。
気温が氷点下のとき、ヘラジカは移動速度を落とし、食料を厳選するようになり、寒さをしのげる針葉樹の木陰で休むことが増える。
ヘラジカの活動範囲と人間の生活圏はますます重複するようになりつつあり、両者の遭遇機会は増えている。こうした遭遇が写真に収められることは多いが、これほどユニークな作品に昇華されることはそうそうない。


