OkloやTerraPowerへの巨額資金と高評価が、原子力ブームと規制の現実を映し出す
試験プラントすら建設していないにもかかわらず、巨額の資金を手にしたのがOkloだ。同社は、2013年にジェイコブ・デウィットとキャロライン・デウィット夫妻が創業した。2015年から2025年4月までOpenAIのサム・アルトマンCEOが会長を務めていた同社は、2024年に特別買収目的会社(SPAC)との合併を通じて上場し、現在の時価総額は150億ドル(約2.3兆円)に達している。この上場でデウィット夫妻は揃ってビリオネアになった。
Okloはアイダホ国立研究所に隣接する用地で準備作業を進めているものの、2026年7月4日までに臨界に到達する可能性は低い。それでも同社には強力な後ろ盾がある。エネルギー長官のクリス・ライトは、かつてOkloの取締役を務めていた人物だ。Okloは、上場している6社前後の小型原子炉企業の中でも最も注目度の高い存在とされる。「Okloの株価は世の中の空気そのものを映している。今や誰もが原子力ブームに乗りたがっている」と、Riot Venturesのマーカスは語る。
とはいえ、いくら巨額の資金と卓越した知性、強大な影響力があっても、新型炉を“意志の力だけで”前倒しすることはできない。ビル・ゲイツが2008年に共同創業したTerraPower(テラパワー)は、これまでにゲイツ本人のほかDOE、エヌビディア、HDヒュンダイなどから合計40億ドル(約6240億円)近い資金を調達してきた。創業から17年近くが経過しているが、同社の350MW級の溶融塩炉設計はいまだNRCの承認を得られていないのが現状だ。
トランプ政権のウェスチングハウス支援パッケージ、最大10基分のAP1000新設構想が再始動
トランプが政策を頻繁に変えることを踏まえると、今後伸びるのは工場で量産する小型炉ではなく、むしろ従来型の大型原発になる可能性もある。過去10年で破産と複数回の所有者交代を経験したウェスチングハウスだが、2025年10月には、トランプ政権が最大5〜10基の1100MWの大型炉「AP1000」に相当する総額800億ドル(約12.5兆円)規模の新規原発計画について、許認可と資金調達の迅速化を後押しする方針を示したことで、再び追い風を得た格好だ。政権側はその見返りとして、ウェスチングハウスが2029年までに175億ドル(約2.7兆円)を超える利益を上げた際、その超過分の20%を取得する権利を持つことになる。
FermiがAP1000を複数基と巨大データセンター群で、テキサス州を「原子力拠点」に
こうした動きは、テキサス州アマリロのデータセンター運営企業Fermi America(フェルミ・アメリカ)にも大きな追い風となった。同社は10月の上場を機に、共同創業者兼CEOのトビー・ノイゲバウアー(53)を、原子力分野で新たに誕生したビリオネアへと押し上げた。元共和党議員の父を持つプライベートエクイティ投資家だったノイゲバウアーは、上場で企業価値が跳ね上がったことで、家族と合わせた純資産を60億ドル(約9360億円)に増やしたと見られている。
Fermiの計画は、テキサス州パンハンドル地帯のDOE施設Pantex(パンテックス。核弾頭のプルトニウム“コア”を製造してきた拠点)に隣接する5000エーカーの土地で、少なくとも4基のAP1000を動力源とする巨大データセンター群を建設するというものだ。
「ここで原発を建てられないようでは、どこでも建てられない」とノイゲバウアーは語る。Fermiの共同創業者には、元テキサス州知事でトランプ政権初代エネルギー長官のリック・ペリーと、その息子グリフィンが名を連ねる。政権との近さも際立っており、ノイゲバウアーは上場の主幹事に商務長官ハワード・ルトニック一族が率いるキャンター・フィッツジェラルドを選び、土地取得では同じルトニック一族が支配する不動産会社Newmarkが数百万ドル(数億円)規模の手数料を得たと報じられている。
さらに言えば、ノイゲバウアーは技術革新の旗手というより、巨大プロジェクトの開発を得意とするタイプだ。その彼が原子力建設部門トップに迎え入れたのが、メスット・ウズマンだ。トルコ出身で米国籍を持つウズマンは、中国で最初の4基のAP1000をはじめ、ブルガリアで1基、UAEで4基の建設を手がけてきた経歴を持つ。
ノイゲバウアーは「彼は“初陣”どころか、すでに13基分の経験がある」と誇らしげに語る。続けて、「小型炉を開発している企業が実用段階に入ったら、その炉もこの敷地にいくらでも受け入れて建設するつもりだ」とも言い切る。
中国の大型炉33基建設をにらみ、AI時代の電力覇権を意識
ノイゲバウアーはまた、原子力への賭けに失敗した場合の保険も用意している。Fermiは、すでに2.5GW分の天然ガスタービンを発注済みで、最初の原子炉が完成する前に、合計11GWのガス火力を建設する計画も進めている。それでもノイゲバウアーが長期的に目指すのは、アマリロを「原子力でAIを動かす」ための連邦政府の中核拠点にすることだ。
「われわれが原子力に取り組むのは、愛国心からだ」と彼は語る。「中国は大型炉を33基も建設しているが、それは冷房用の電力が欲しいからではない。彼らは、あらゆる用途に使える膨大な電力を確保しようとしている。だからこそ、米国には原子力で駆動するAIが必要なんだ」とノイゲバウアーは語った。


