起業家

2025.11.29 15:00

AIブームが切り開き牽引する、新たな「原子力発電」の時代

米国ミシガン州にある原子力発電所(Shutterstock .com)

グーグルがすでに契約、Kairos PowerはTRISO燃料を使い小型モジュール炉の実用化を目指す

Kairos PowerのCEO兼共同創業者のマイク・ラウファー(40)は、「新世代の原子力発電」のベテランといえる存在だ。彼は、ニューメキシコ州アルバカーキでデモ用の原子炉を建設し、稼働させ、廃炉プロセスまでを完了させた経験を持つ。「この9年間で、本当に膨大な知見を得た」とラウファーは語る。

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Kairos Powerは現在、同社初の発電可能なデモ炉となるHermes 1と、2030年までにテネシー渓谷開発公社(TVA)の電力網に50MWを送電する予定の初の商用炉Hermes 2を建設している。グーグルは2035年までに、これらの炉から500MWの電力を購入する契約をすでに結んでいる。

Kairos Powerの本社は、カリフォルニア州アラメダにある旧海軍航空基地の航空機格納庫を改装した建物に置かれている。この拠点は、ラウファーと共同創業者の2人が博士号を取得したUCバークレーのすぐ南側に位置する。同社は、2028年にHermes 1を完成させるまでの間に、エネルギー省(DOE)から総額3億300万ドル(約473億円)の資金を受け取る見込みだ(なお、巨大ヘッジファンドのルネサンス・テクノロジーズを故ジム・サイモンズと共に築いた数学者で、ビリオネアでもあるラウファーの父ヘンリー・ラウファーが出資者かどうかについては、ラウファー本人は明言を避けた)。

TRISOペブル燃料の多層被覆構造、メルトダウン回避と核拡散リスク低減を売りにする設計

Kairos Powerが手がけるプレハブ型モジュール炉は、溶融フッ化物塩で冷却する原子炉設計に関する数十年の技術の進歩を土台にしている。同社が採用するのは、TRISO(トライストラクチュラル・アイソトロピック)と呼ばれる新しい“ペブル型”燃料だ。複数の新型炉が採用しているTRISO燃料こそが、支持者が「新型炉は炉心溶融にもテロにも強い」と主張する最大の理由になっている。この燃料は、ケシの実ほどの二酸化ウランの粒をミリ単位の多層コーティングで包み込み、熱を遮断しつつ、有害な核分裂生成物を漏らさない構造になっている。

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Kairos Powerは、このTRISOを黒鉛で包み、ゴルフボール大の“ペブル燃料”に成形する。大量のペブルが近接すると核分裂反応は生じるが、厚い多層コーティングのおかげで、暴走的な連鎖反応(メルトダウン)を起こすほど高温にはならないよう設計されている。支持者は、仮に悪意ある者がミニ原子炉から数千個のペブル燃料を盗んだとしても危険な用途に転用するのは極めて難しく、仮に炉が爆破されたとしても、作業員が現場に入り、安全にペブルを回収できるとまで主張する。

Kairos Powerは自社独自のTRISO製造ラインを開発しており、現在それをエネルギー省のロスアラモス国立研究所へ移設している。移設後は、ようやく濃縮ウランを使った“実際のTRISO燃料”をペブル状に加工できる体制が整うことになる。「製造の内製化は、われわれの戦略の要だ」とラウファーは語る。

Valar AtomicsとDeep Fissionが、新工法と訴訟で規制の壁に挑む

設立2年のValar Atomicsの創業者でCEOのアイゼア・テイラー(26)も、“若手組”ながらTRISO燃料の採用を計画しているが、自社での製造にはまだ着手していない。同社にシード投資を行ったロサンゼルス拠点のRiot Venturesのスティーブ・マーカスによれば、テイラーは「ランボルギーニではなく、トヨタ・カローラのような実用性を重視した原子炉の開発に全力を注いでいるため、その時間がとれない」という。

Valar、TRISO採用高温ガス炉とゼロ出力臨界試験で技術力をアピール

カリフォルニア州エルセグンドに拠点を置くValar Atomicsは2025年9月、ユタ州で初のデモ用原子炉の建設に着工した。また、11月には1億3000万ドル(約203億円)の資金調達を発表し、ロスアラモス国立研究所で炉心を使った試験において、「ゼロ出力臨界(発電を伴わない核分裂反応)」を達成したと明らかにした。

このゼロ出力臨界が、トランプ大統領が掲げる目標を満たすものかは不透明だ。それでもテイラーは、自らが設計する高温ガス冷却炉「Ward 250」(祖父でありマンハッタン計画の科学者だったウォード・シャープにちなんだ名称)が、大統領の7月4日の期限までに実際に発電を伴う“真の臨界”を達成できると見込んでいる。

Valarはすでに、ウラン燃料こそ入っていないものの、実際の運転時と同じ温度と圧力に耐えられる熱試験用プロトタイプも製作している。「ロサンゼルスの街の16ブロック分の電力──およそ50万ワット──を炉心にぶち込むんだ」とテイラーは言う。チームはこのプロトタイプを何度も分解しては組み立て直し、その過程で漏れの発見から運用技術まで、多くの学びを得てきた。

テイラーの発信力とMAGA支持が資金調達を加速させる

テイラーは、とにかく先を急ぐ性格だ。アイダホ州出身の彼は16歳で高校を中退し、本来なら大学に通うはずだった数年間を、独学で原子力工学の勉強に費やした。その猪突猛進ぶりは、投資家だけでなく保守派のMAGA系インフルエンサーにも響いている。「彼には、人を説得し、仲間に引き込む独特の力がある」と、投資家のスティーブ・マーカスは言う。Valar Atomicsの投資家には、パルマー・ラッキーのような顔ぶれも名を連ねる。2014年のフォーブス「30 Under 30」に選ばれたラッキーは、21歳で自らのVR企業Oculusをメタに売却し、24歳でハイテク兵器メーカーのAndurilを共同創業したビリオネアだ。

Valarは2025年、原子力規制委員会(NRC)を相手取った訴訟にも加わった。この訴訟は、NRCが新型原子炉の許認可に時間をかけすぎており、ミニ原子炉の規制権限そのものを持つかどうかも疑わしいと主張するものだ(原告には、スタートアップのLast EnergyとDeep Fission、テキサス、ユタ、ルイジアナ、フロリダの各州とアリゾナ州議会も含まれている)。現在、この訴訟は和解協議のために停止中だ。

Deep Fission採用する独自のアプローチは、地中埋設型原子炉

「必要なのは“今の原子力”であって、3年もかかる審査の後ではない」と語るのは、Deep FissionのCEOリズ・ミュラー(47)だ。彼女は、UCバークレーの元物理学教授である父親とともにこのスタートアップを立ち上げ、2025年9月の株式公開で3000万ドル(約47億円)を調達した。

同社が採用する独自のアプローチは、直径約76センチの縦穴を地中約1.6キロまで掘削し、その底にウラン燃料を収めた容器を沈め、穴全体を水で満たすという仕組みだ。原子炉の熱で水を沸騰させて発電する一方、炉心そのものは岩盤の中に“埋め込まれた状態”で隔離されるため、安全性が高いとされる。

「これからの2年間で、本当に実際に原子炉を建てられる企業と、そうでない企業がはっきり分かれるだろう」とミュラーは語る。

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翻訳=上田裕資

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