トランプ政権による優遇策の強化、投資家も原子力への回帰を強く支持
もちろん、自宅の近くに原子炉を建てるとなれば、今も反対する人は少なくない。それでも現在は、草の根レベルでも、政策のトップ層からも原子力への支持が広がっている。トランプは、2025年1月に大統領に返り咲いて以来、巨大な洋上風力プロジェクトを中止し、巨大ソーラーファーム計画を葬り、「ワン・ビッグ・ビューティフル・ビル」に署名して、2026年7月4日以降に着工する風力・太陽光発電プロジェクトへの税額控除を廃止した。同時に同法は、原子力関連の優遇措置を維持・拡大し、新しい原子炉設計への税額控除を投資額の最大40%まで認めている。
トランプ政権は、慎重すぎて遅いことで知られる原子力規制委員会(NRC)の制度改革にも着手しており、新型原子炉の設計承認が早まるとみられている。原子炉の許認可を取りやすくするため、スタートアップが、軍事基地や第二次世界大戦のマンハッタン計画以来、原子力関連施設を抱えるアイダホ国立研究所のような既存サイトに原子炉を設置できるようにする方針も掲げている。
この背景には、民間側による強い後押しもある。代表的なのがマイクロソフトの共同創業者ビル・ゲイツだ。ゲイツは、この20年間、地球温暖化対策として原子力を繰り返し称賛してきたが、近年はその意見を後押しする勢力が増えている。「核分裂がもし今登場した技術だったら、気候変動を解決し得る決定打として扱われていただろう。それほど強力な技術なんだ」と、X-energy、Aalo、Valarに投資するAlumni Venturesのプリンシパル、ドリュー・ワンジラクは語る。
創業者の原体験も原子力復権に影響
話を本稿冒頭のAaloに戻すと、ロザックと共同創業者で最高技術責任者(CTO)のヤシル・アラファト(39)には、原子力復活に取り組む個人的な動機もある。ロザックは、幼少期に患っていた喘息が、故郷オンタリオ州の石炭火力発電所が原子力発電に置き換えられたことで改善した経験を持つ。アラファトは、バングラデシュでロウソクの明かりを頼りに数学の宿題をしていた少年時代を経て、大学生として米国に渡り、ノースカロライナ州立大学で原子力工学の修士号を取得した。
その後アラファトは、大型炉からマイクロリアクターまで、原子炉の規模が大きく異なる領域で開発を経験してきた。ウェスチングハウスでは1100MWの大型炉「AP1000」に携わり、2019年にアイダホ国立研究所へ移ってからはマイクロリアクター設計の責任者を務めた。Aalo共同創業者の2人は、将来的には小型の量産炉をAI企業だけでなく、電力が不足する貧しい国々にも販売したいと考えている。Aaloという社名はベンガル語で「光」を意味する。
福島とスリーマイルの事故を経て、ウクライナ侵攻とAI需要が原子力の再評価を加速
だが、これら盛り上がりとは裏腹に、原子力の未来はつい最近まで暗いものと見られていた。2011年に日本の福島第一原発が津波で事故を起こした後、日本とドイツは相次いで原発を閉鎖した。米国の原子力業界も、1979年のスリーマイル島での部分的な炉心溶融事故以来、長年低迷してきた。この事故は数カ月にわたって新聞の一面を占めたが、実際に放出された放射線量はごくわずかで、健康被害はなかったと米原子力規制委員会(NRC)は説明した。
規制強化とコスト超過が大型原発の新設を難しくした
それでも、スリーマイル島事故後の規制強化は、原発建設の中止と、より厳しい原子力規制を招き、大型原発の建設遅延とコスト暴騰の一因となった。2024年、ジョージア州のGeorgia Powerは建設開始から15年を経てようやくオーガスタの原発を完成させた。この原発はウェスチングハウスのAP1000炉を2基備え、170万世帯の電力をまかなえる規模だが、建設費は当初予算の2倍以上の300億ドル(約4.7兆円)に膨れ上がった。その原因としては未検証の工学設計やサプライチェーンの不備、熟練労働者の不足などが報じられた。一方、同規模の発電所を天然ガスタービンで建てた場合、費用はわずか70億ドル(約1.1兆円)で済む。米国はもはや大型原発を効率的に建設できる能力を失ったと見られている。現在、米国で稼働中のグリッド規模の原発は94基(その多くが40年以上稼働中)で、1990年の112基から減少している。
脱ロシアとAI需要の爆発が、EUとビッグテックの原子力シフトを決定づける
しかし、停滞していた原子力回帰の潮流を一気に再始動させたのが、2022年2月のロシアによるウクライナ侵略と、AIが引き起こした爆発的な電力需要だった。DOEやビル・ゲイツなど“原子力の信奉者”は、それ以前からすでに新型炉の開発に資金を注ぎ込んでいたが、この2つの衝撃が原子力シフトの動きを一段と加速させた。
ロシア産の石油と天然ガスから脱却したい欧州連合(EU)は、ゼロカーボンの原子力を一定の条件下で“グリーン”として扱う決定を下した。米国のメタ、アマゾン、グーグル親会社のアルファベットも、原子力発電による電力の長期購入契約を結んでいる。
スリーマイル島ですらもこの舞台に戻ってきた。2019年に閉鎖された残る1基の原子炉は、現在再稼働に向けた準備が進められている。これはマイクロソフトが今後20年間にわたり電力を全量購入する契約を結んだからだ。この発電所は新たに「Crane Clean Energy Center」と改名された。


