宇宙

2025.12.01 10:35

宇宙最大の謎、暗黒物質を解明へ NASA衛星データ使い東大教授らが解析

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暗黒物質(ダークマター)は、この宇宙に広く存在するが光学的に観測できないため、理論上存在するであろうとされながらもいまだに正体が掴めない謎の物質だ。それをついに東京大学が発見した……かもしれないという発表があった。もしそれが正しければ「天文学、物理学史上の重大な進展」だという。

暗黒物質の最有力候補は、WIMPという仮説上の粒子だ。陽子の10倍から10万倍ほどの範囲の質量があり、ほかの素粒子との相互作用はごく弱いため、間接的な観測も難しい。WIMPは、Weakly interacting massive particle(弱く相互作用する重粒子)の略で、英語で弱虫を意味する「wimp」にかけられている。とても大きな粒子なのに、隠れてばかりいる弱虫さんというわけだ。

WIMP同士が衝突して別の物質に変換されると(対消滅)、20ギガ電子ボルトという高エネルギーのガンマ線を放出すると予想されている。そのガンマ線放出が、WIMPの存在の手がかりになる。そこで東京大学大学院理学系研究科の戸谷友則教授は、2008年にNASAが打ち上げたフェルミガンマ線観測衛星が捉えた天の川銀河のハロー(星間物質が薄く広がり銀河系を包み込んでいる領域)のガンマ線のデータを解析した。

フェルミガンマ宇宙望遠鏡の天の川銀河の中心部と円盤部を除くハローのガンマ線の観測データを解析。
フェルミガンマ宇宙望遠鏡の天の川銀河の中心部と円盤部を除くハローのガンマ線の観測データを解析。

通常、天の川銀河系のガンマ線は広く比較的均一なエネルギーで放出されるが、中心部と円盤部の天体のガンマ線放出が激しい領域をカットして見たとき、20ギガ電子ボルト付近で放射強度がとくに高くなっていることがわかった。そのガンマ線エネルギーと放射強度の関係の性質が、WIMPが存在するとして予測されたものと合致したのだ。

500ギガ電子ボルトほどの暗黒物質が対消滅した際に放出されるガンマ線のスペクトルが予想と合致。
500ギガ電子ボルトほどの暗黒物質が対消滅した際に放出されるガンマ線のスペクトルが予想と合致。

もしこの観測結果が正しければ、暗黒物質の正体はWIMPであることが判明し、同時に、これまで「素粒子物理学の標準理論には存在しない新粒子」の発見という大事件となる。

これはまだ本格的なWIMPの正体を解明する突破口に過ぎないということだが、それが実現すれば、天文学や宇宙物理学でもやもやしていた部分が一気に晴れて、さまざまな発見や観測精度の大幅な向上、物理法則の根本的な理解が深まることなどが期待される。

プレスリリース

文 = 金井哲夫

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