信頼できる統計が存在しない中で利用件数と貸付額は増加、市場規模約19.1兆円に拡大との予測も
BNPLの利用状況や貸付額についての信頼できる統計は、残念ながら存在しない(その理由については後述する)。だが、どの数字を採っても、BNPLの利用件数と貸付額が伸び続けていることは確かだ。
ニューヨーク連邦準備銀行は、2つの独立した消費者調査に基づき、2022年には成人の14%がBNPLを利用したと報告している。また、フィラデルフィア連邦準備銀行は、2023年に成人の約20%がBNPLローンを抱えていたと指摘した。両行とも、BNPLの利用は「経済的に脆弱な」層により多く見られると分析している。
NerdWalletの委託で2025年にハリスが実施した調査では、消費者の55%が過去にBNPLサービスを利用した経験を持ち、約22%が現在BNPL事業者に返済義務を抱えていると答えた。また、過去12カ月で複数のBNPLローンを抱えた人は19%にのぼった。ペイパルが2025年まとめた最新の2025年ホリデー調査では、2025年のホリデー費用を賄うためにBNPLを使う予定だと答えた買い物客は50%に達している。
消費者がこうした意向どおりに行動すれば、報告されている過去の利用水準から見て、BNPLの利用は2倍以上に増える計算になる。しかも、ホリデー商戦でBNPLを使うと回答した人々のうち、すでに別のBNPLローンを抱えている人数については、現時点で推計すら存在しない。
主要5社の貸付額は約3120億円から約3.8兆円へ、市場規模の拡大が続く
米消費者金融保護局(CFPB)は2021年、主要BNPL事業者5社──Affirm、Afterpay、Klarna、ペイパル、Zip──で取り扱われたBNPLローンの件数が、2019年の1680万件から2021年には1億8000万件へと急増し、貸付額も同期間に20億ドル(約3120億円。1ドル=156円換算)から242億ドル(約3.8兆円)へと跳ね上がったと報告した。
リッチモンド連邦準備銀行は、このCFPBの手法に基づき、主要5社のBNPLローン総額が2024年には363億ドル(約5.7兆円)に達したと推計する。一方、ResearchandMarkets.comの報告書は市場規模をはるかに大きく見積もっており、2024年には1090億ドル(約17兆円)、2025年末までに1223億ドル(約19.1兆円)に達すると予測している。
アドビは、感謝祭からサイバーマンデーまでの年末商戦最初の5日間にオンラインで利用されるBNPLの支払い額が202億ドル(約3.2兆円)を超えると試算している。これは年間BNPL支出の約2割に相当し、そのうちサイバーマンデーの1日だけで10億ドル(約1560億円)が使われるという。
ウォルマートやターゲットなど、実店舗でのBNPL導入を進める小売企業
アドビは店舗でのBNPL支出を計上していない。しかし、店舗でもBNPLを導入する小売企業は増えており、ベスト・バイ、ディックス・スポーティング・グッズ、フットロッカー、ホーム・デポ、メイシーズ、ノードストロム、ターゲット、アーバン・アウトフィッターズ、ウルタ・ビューティー、ウォルマートなどが店頭でのBNPL利用を可能にしている。
信用情報機関が消費者の信用スコアへの反映開始、上院議員グループも主要事業者に情報提供を求める
最近まで、BNPLは信用情報機関にも政府機関にも報告されない“幻の債務”と見なされてきた。しかし、状況は変わりつつある。米国の大手信用情報機関3社──Equifax(イクイファックス)、Experian(エクスペリアン)、TransUnion(トランスユニオン)──が、主要BNPL事業者から提供されるデータを消費者の信用スコアに組み込み始めたためだ。
同時に、エリザベス・ウォーレン上院議員が主導する米上院銀行・住宅・都市委員会の少数党議員グループは、Affirm、Afterpay、Klarna、ペイパル、Sezzle、Splitit、Zipの主要7社に対し、12月9日までに「BNPL商品の詳細、利用者データ、そしてBNPLが広範な経済に及ぼす影響」についての情報提供を求める書簡を送付した。
BNPLの利用が急増していることに加え、トランプ政権下でCFPBの優先事項や執行姿勢が変化したことに危機感を抱いた同委員会は、“不透明”と位置づけるBNPL商品の「リスクと経済的影響」を把握しようとしている。
生活必需品の購入や債務の返済にもBNPLが使われ、家計に深く入り込んでいる実態
議員グループは書簡でこう記している。「消費者は、食料品や医療などの生活必需品の支払い、他の消費者向け債務の返済にまでBNPLを使っており、BNPLローンが消費者の家計に深く入り込んでいる現状が明らかになっている」
議員グループは続ける。「これは、消費者が他の信用手段を利用できなくなったときにBNPLへ流れている可能性を示しており、支払い能力を超える債務を抱えている恐れがある」。議員グループはこれを裏付ける研究として、「BNPLローンを組んだ利用者は、年齢と信用スコアが同程度でBNPLを利用しなかった消費者と比べて、ローンを組んだ月のクレジットカード債務が平均871ドル(約14万円)多かった」とする調査結果を引用している。


