ヘルスケア

2025.11.26 11:00

薬物療法も行動療法も存在しないコロナ後遺症 米国人の7%が罹患

pedro7merino/Shutterstock

pedro7merino/Shutterstock

新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的流行)が収束しつつある今も、世界はその余波と格闘し続けている。その影響が最も顕著に表れているのが、長期化するコロナ後遺症の問題だ。米国では成人の約7%が同疾患にかかると推定されており、患者を苦しませ、研究者を困惑させ続けている。

advertisement

米国立衛生研究所(NIH)はこのほど、コロナ後遺症がどのように発現し、その治療がなぜこれほど困難であるのかについて、これまで以上に明確な見解を示した。大手製薬企業はポートフォリオの再構築を進めており、メッセンジャーRNA(mRNA)ワクチン計画の一部を縮小する一方で、供給網の確保と次世代技術革新への転換を図るため、米国内の製造基盤への大規模な投資を推進している。

コロナ後遺症は現代の臨床科学の限界と医薬品戦略の課題を露呈した。同疾患の多様な経過には単純な解決法がなく、ある人に有効な治療法が別の人には効果がない可能性がある。米政府機関がmRNAワクチンから距離を置く一方で、史上最速のワクチン展開を支えた技術は再評価されている。

複雑で持続的なコロナ後遺症

学術誌ネイチャーコミュニケーションズに掲載されたNIHの論文によると、コロナ後遺症は単一の疾患ではなく、8種類に分類される一連の疾患経過の集合体であることが判明した。この研究では、新型コロナウイルス感染後最大15カ月間にわたり3659人の成人を追跡調査し、持続的で重篤なものから軽度または時間とともに改善するものまで、8つの異なる症状の経過を特定した。

advertisement

感染後3カ月時点で、参加者の約10%がコロナ後遺症の基準を満たし、うち81%は1年後も症状を報告していた。5%の患者は、疲労感や脳のもやもや感、決して治まらない痛みなど、持続的で重い症状を経験した。12%は症状が断続的に強まる状態を経験し、14%は当初回復したものの数カ月後に症状が悪化した。

論文の筆頭著者であるブリガム・アンド・ウィメンズ病院のブルース・レビー医学部長は、「これらの知見はコロナ後遺症の生物学的複雑性を裏付けている」と指摘。「経過を理解することは、将来の治療法や臨床試験を設計する上で不可欠だ」と述べた。

マサチューセッツ総合病院とブリガム・アンド・ウィメンズ病院の報告書では、女性や急性感染期に入院した患者は持続的で重篤な症状に苦しむ可能性が高いとされた。コロナ後遺症が慢性的な公衆衛生上の負担となる中、研究著者らはこのデータが資源配分や研究優先順位を決める上で役立つことを強調した。

コロナ後遺症の最も深刻な症状

多くの人にとって、コロナ後遺症の最も深刻な症状は神経系への影響、つまり記憶障害や疲労、脳のもやもや感だ。医学誌「米医師会紀要(JAMA)」に掲載されたNIHの試験は、認知リハビリテーション手法に関するこれまでで最も包括的な検証となった。22の施設で実施された5群の第2相試験では、適応型オンライン認知訓練プログラム、構造化リハビリテーションコース、在宅脳刺激療法の3つの介入を評価した。

当初の期待とは裏腹に、結果は期待外れだった。全ての介入群の参加者は主観的な改善を報告したが、いずれの介入も、研究の主要評価項目である修正認知尺度で対照群に対する測定可能な改善をもたらさなかった。結果がゼロだったことで、課題の大きさが浮き彫りになった。認知機能障害を伴うコロナ後遺症に対する明確な効果を示した薬物療法や行動療法はまだ存在しないのだ。

次ページ > 変化するバイオテクノロジー業界

翻訳・編集=安藤清香

タグ:

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事