ヘルスケア

2025.11.26 11:00

薬物療法も行動療法も存在しないコロナ後遺症 米国人の7%が罹患

pedro7merino/Shutterstock

進むべき道を探る

コロナ後遺症の科学が複雑化するにつれ、製薬企業は急速に変化する政策と資金調達環境の中で足場を固めようと苦戦している。米厚生省は8月、米生物医学先端研究開発局(BARDA)のmRNAワクチン開発計画を全て段階的に終了させると発表し、総額約5億ドル(約780億円)に上る22件のプロジェクトを打ち切った。ロバート・ケネディ・ジュニア厚生長官主導の検討を経て行われたこの動きは、mRNAワクチンから「より安全で幅広いワクチン技術」への決定的な転換となった。モデルナやファイザーなどの製薬企業や大学との契約は、解除されたり規模が縮小されたりした。

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これに伴う人員削減の影響は業界全体に波及している。パンデミック中に急成長したモデルナはその後、費用対効果と戦略的優先順位の見直しを理由に、新型コロナウイルス以外のmRNAワクチンや遺伝子治療を含む複数の臨床計画を打ち切った。

製造と供給網の回復力強化へ

研究開発費が抑制される中でも、パンデミックによる供給ショックが米国の医薬品業界の製造を後押ししている。産業界は製造の国内回帰と製造能力の強化に数十億ドルを投じている。

スイス製薬大手ノバルティスは、米ノースカロライナ州に6.5ヘクタールの製造拠点を建設するなど、米国への230億ドル(約3兆6000億円)規模の5年間にわたる投資計画を発表した。同施設は、生物製剤、遺伝子治療、固形製剤の製造を一元化する。一方、モデルナは米マサチューセッツ州ノーウッドにある技術センターに1億4000万ドル(約220億円)を投じ、mRNAワクチン製造の改善を図るとともに、個別化がんワクチンプラットフォームも支援する予定だ。これらの投資は、世界的なワクチン需要の変化と、供給網管理や製造の近代化を競争上の優位性として重視する戦略的な動きを反映している。

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ワクチンの承認と研究

米政府が予算を削減する一方で、mRNA技術は進歩を続けている。米食品医薬品局(FDA)は8月、65歳以上の高齢者と5~64歳の高リスク層を対象とした新たな新型コロナウイルスワクチンを承認した。新製剤はFDAの指針に従い、新型コロナウイルスの変異株「オミクロン株」の派生型「LP.8.1」を標的としている。この承認により、変異株に迅速に適応するmRNAワクチンの柔軟性がいかに重要であるかが改めて示された。

抗ウイルス薬「パキロビッド」は、コロナ後遺症の治療薬として研究が進められている。また、コロナ後遺症関連の炎症に対するGLP-1受容体作動薬の試験も進められている。

変化するバイオテクノロジー業界

緊急事態時代の政府の資金提供が終了し、慢性ウイルス後症候群が新たな治療分野として台頭するなど、バイオテクノロジー業界は変化している。コロナ後遺症の研究は現在、公衆衛生学、神経学、免疫学の交差点に位置しており、これらの分野では連携が求められているものの、不確実な成果しか得られていない。

現時点では、業界は過渡期にあると指摘する専門家もいる。臨床研究により、コロナ後遺症の複雑で多様かつ長期にわたる症状が明らかになった。製薬企業はパイプラインの再調整を迫られる一方で、製造能力の強化と供給網の回復力向上に向けた投資を同時に推進しなければならない。

forbes.com 原文

翻訳・編集=安藤清香

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