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2025.11.28 12:00

Forbesが選ぶ「世界最高のCIO」2025年版──企業のAI戦略で成果を生んだ50人

Shutterstock.com

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この10年で、企業の最高情報責任者(CIO)の役割は大きく変わった。このポジションはかつて、テクニカルな領域のみを担うものだったが、現在ではリスク管理から事業変革まで、多岐にわたる領域を横断するものとなっている。本稿で紹介するリーダーたちは、人工知能(AI)によって再編されつつある世界におけるその役割を体現している。

AIの進化はここ数年で一気に加速し、企業は取り残されることを恐れて導入を急いだが、必ずしも期待どおりの成果を上げられていない。マサチューセッツ工科大学(MIT)の最近の報告は、企業向けの生成AI実証プロジェクトの9割超が投資の回収につながらなかったと指摘している。

企業のAI戦略を成功させる役割を負っているのは、多くの場合CIOだが、彼らは現在、業務効率の改善を目的とする新たなテクノロジーを精査して採用しつつ、それが実際に成果を生むよう導くという2つの課題に直面している。フォーブスが11月18日に公開した年次リスト「世界最高のCIO(Forbes CIO Next)」2025年版は、そうした役割を果たすCIOだけでなく、CISO(最高情報セキュリティ責任者)・CDO(最高デジタル責任者)・CTO(最高技術責任者)といったIT部門のリーダーたち全員を対象としている。

「世界最高のCIO」2025年版は50人を選出

2025年で6回目となる「Forbes CIO Next」は、幅広い業界のエグゼクティブを評価している。ここには、CAVA(カバ)やチポトレなどのファストカジュアル系の飲食チェーン、BNYやBlock(ブロック)のような銀行・金融機関、ウルタ・ビューティーやJ.クルーといった小売企業、そしてTubi(トゥービー)やNFLなどスポーツ・エンタメ系企業が含まれる。

AIを活用して実際に成果を生み出す

ここに選ばれたリーダーはいずれも社内のデジタル変革を主導してきた人物で、その多くは2025年にAIを活用して実際に成果を生み出した。チャットボットで単純作業を処理し、人間がより高度な問題に集中できる環境を作ったリーダーもいれば、コード生成や厨房の監視、在庫管理などのビジネスプロセスを改善するためにAIモデルを活用したリーダーもいる。長年にわたりレガシーアプリを溜め込んできた大企業で、デジタルツールの統合や刷新に踏み切り、大きな成果につなげたケースも多かった。

「Forbes CIO Next」2025年版の作成にあたり、フォーブスは第三者から推薦を広く募り、専門家や業界団体の意見も取り入れた。そして数百人の候補を精査したうえで、編集部が優れた50人を選び出した。なお、このリストは順位づけではなく、特定分野を代表する優れたリーダーに光を当てる「スポットライト」に位置づけられている。選考にあたっては、最近の実績と明確な成果を示した候補者を重視した。

マイク・アメンド
CETO|フォード・モーター

マイク・アメンドは過去4年間、自動車大手フォードの大規模なテクノロジー改革を、CETO(チーフ・エンタープライズ・テクノロジー・オフィサー)としてけん引してきた。数十年にわたり自社データセンターに依存してきた同社は、現在クラウドインフラと複数のクラウドソフトウェアを組み合わせる体制へ移行している。アメンドは、この柔軟なマルチクラウド基盤によってフォードが持続的に成長し、大規模なAI開発にも対応できるようになると見込む。移行作業はすでにオンプレミスの計算能力を大幅に解放し、一部のレガシーシステムでは処理時間が75%短縮された。彼は、3万3000人を超える従業員が日常業務の自動化に使う社内向けAIプラットフォームの構築も主導した。

キム・バジル
CIO|キンドリル

キム・バジルは、ITインフラ大手のKyndryl(キンドリル)がIBMから完全に独立して上場IT企業となるスピンオフの過程をCIOとして主導した。彼女は約8万人の社員を移行させるために、レガシーアプリへの依存度を大幅に下げる改革を進め、1800あったアプリを2年で360未満にまで削減した。最新AIツールを試すためのラボと、責任ある利用を担保するガバナンスボードを設置し、AI導入を加速させた。現在は、従業員の4分の1以上がCopilotなどのAIツールによって週10時間超を節約できていると回答している。バジルは、キンドリル以前にはLeidos(ライドス)、ロッキード・マーチン、ヴァンガードといった大企業で重要な役割を担っていた。

ポール・ベスウィック
CIO兼COO|マーシュ・マクレナン

ポール・ベスウィックは、2021年にプロフェッショナルサービス大手Marsh McLennan(マーシュ・マクレナン)のCIO兼COOに就任した。Marsh、Mercer、Oliver Wyman、Guy Carpenterの4事業が個別に抱えていたテクノロジー基盤を統合し、約5000人の技術者が働く体制を構築することで、部署間の分断を解消し、コラボレーションを強化した。ダブリンのイノベーションセンターが開発した社内向け生成AIツール「LenAI」の導入も主導した。このツールは約9万人の従業員が反復作業を自動化するために利用しており、導入率は89%に達している。

同社は、この取り組みによって従業員1人あたり年間100時間以上を削減し、1億6000万ドル(約250億円。1ドル=156円換算)の生産性向上につながったと見積もっている。

エドウィナ・バスカラン
CIO兼CCSO|メイヨー・クリニック

エドウィナ・バスカランは、米国医療大手のメイヨー・クリニックで初のCCSO(チーフ・クリニカル・システム・オフィサー)兼CIOだ。オペレーションから情報管理まで幅広い部門にまたがる1000人以上のチームを率い、生成AIの導入を統括している。これにより、患者とのコミュニケーションが改善され、臨床文書作成が高速化し、300万人以上の患者を支える数千人の臨床医が、より迅速に判断できる環境が整った。

彼女は、膨大なデータポイントを毎日処理し、ほぼリアルタイムの画像提供を可能にし、ダウンタイムを過去最小の水準に抑える臨床システムの刷新も進めた。彼女の指揮下で、ITチームは2万4000件のシステム変更リクエストの92%を90日以内に完了し、社内記録を更新した。

現在メイヨー・クリニックは、より安定的で安全かつ効率的な臨床システム基盤を運用しており、バスカランが設立した「Systems Innovation Accelerator」は、同院のデジタル関連パイロットプロジェクトの実証拠点となっている。

マイク・ビドゴリ
CTO兼CPO|トゥービー

マイク・ビドゴリは、1年半前にFOX傘下の無料動画配信サービスであるTubi(トゥービー)に移籍し、CTO兼CPO(チーフ・プロダクト・オフィサー)に就任した。それ以前は、メタ、ピンタレスト、インスタカートで製品チームを率いていた。

ビドゴリは、数百万人規模の視聴者と広告主双方を満足させる配信基盤を支える役割を担い、アドテクノロジーやAIによるコンテンツ個別化を強化して、アマゾン、Moloco、Innovid、Kochavaとの新たなアドテク提携につなげた。最大の挑戦は、2月の第59回スーパーボウルの4Kライブ配信を円滑に実施することだった。この日、トゥービーは延べ2400万人のユニーク視聴者を処理し、1分平均1360万人が視聴する中でも問題なく運用した。この成功を受け、同社は2025年の感謝祭に行われるNFCノース地区の注目試合──年間で最も視聴されるNFLレギュラーシーズンゲーム──の配信を予定している。

ギャリー・ブラントリー
CIO兼SVP|NFL

ギャリー・ブラントリーは2023年、米プロフットボールリーグNFLのCIO兼SVPに就任した。イノベーションハブを立ち上げて新技術の検証・導入を進め、AIと新興技術のガバナンス委員会を設置し、リーグのデータ管理のためにデータストレージ企業NetAppとの提携も確保した。光学式AIトラッキング技術を導入し、新型カメラ6台とコンピューターシステムによって従来の手作業によるフィールド測定を置き換え、より正確な判定と中断の減少につなげた。イベント関連の質問に答えるAIエージェント「Ask Vince」、国際市場向けコンテンツの自動翻訳・ローカライズなどを通じて、ファンエンゲージメントの強化を推進している。

カーター・バス
CIO|ワーカート

カーター・バスは過去5年間、企業のワークフローの自動化を推進するWorkato(ワーカート)のテクノロジー運用とAI導入を主導してきた。2025年には、同社基幹業務を自律実行する28種類のKPI駆動型AIエージェント「Genies」を含む「G28」構想を立ち上げた。IT業務など会社全体のプロセスをGeniesが自動運用することで、ソフトウェアコストは28%削減され、導入から30日で270万ドル(約4億2000万円)のパイプラインを創出し、売上成長に直接貢献した。バスの指揮下で、ワーカートのITチームは顧客自身がAIエージェントを構築できる環境も整備した。バスは、自らCIOカウンシルを組織し、50〜60人のVPやCIOといった役職の幹部を招いてAI変革に関する実践的なフレームワークを議論する場も主宰している。

ダン・カーマイケル
CISO|データマイナー

ダン・カーマイケルは、リアルタイムのリスク情報をAIで提供するDataminr(データマイナー)およびその顧客、業界全体のAIセキュリティ分野の形成に大きく貢献している。彼のチームは、24時間365日体制で自動テストとリスク検知を行う社内AIエージェントを開発・導入し、2025年には新しいソフトウェアリリースのテストとレビューにかかる時間を85%短縮した。2025年は、カーマイケルの働きかけによって、サイバーセキュリティ脅威の解決時間が55%短縮された。データマイナーの業務以外で彼は、情報システム監査・統制協会(ISACA)が業界で初めて創設したAIセキュリティ専門資格の策定にあたるアドバイザリーボードのメンバーも務めた。会社を、AIマネジメントシステムの国際標準であるISO 42001を取得した世界初の40団体の1つへと導いた。

ジェイ・カバルカント
CIO兼SVP|コンステレーション

ジェイ・カバルカントは過去4年間、エネルギー大手Constellation(コンステレーション)で800人のIT専門職チームと5億ドル(約780億円)超の年間予算を統括し、デジタル変革とサイバーセキュリティ強化に投資してきた。彼は全社的に業務プロセスの自動化を進め、コストを20%削減し、インシデントへの対応時間を40%短縮した。IT部門を率いて、30万件超の顧客アカウントを新しい統合プラットフォームへ移行し、従来顧客が別々に利用していた外部ポータル3つを一本化した。これには、286のサービスと1320のアプリケーションを新プラットフォームへ無停止で移行し、184のレガシーシステムを廃止する作業が含まれていた。

ジェナ・クライン
テクノロジー/データ/インテリジェンス担当SVP|オクタ

ジェナ・クラインは、ID管理大手のOkta(オクタ)でテクノロジー戦略を担当し、6000人超の社員が利用する技術ソリューションの構築・運用・拡張を主導している。過去1年半で、彼女のチームはGeminiを含む60以上のAIツールや新機能を全社に展開した。これらツールは、カスタマーサポート部門だけで年間5万時間を削減するなど、直近の会計年度だけで合計25万時間以上の生産的時間を生み出す見込みだ。チームは、全社員を対象に週5日・24時間体制のサポートを提供する新たなITモデルを導入し、自社開発のAIチャットボットによってユーザーからの質問の半数超を自動処理できるようにした。これにより数千時間規模の効率化が進み、ITスタッフはより複雑な問題に集中できるようになった。現在、生成AIツールの利用率は全社で約90%に達している。

キース・クレデンディノ
CITO|メイシーズ

キース・クレデンディノは、米小売大手メイシーズの歴史でも最も複雑な技術プロジェクトの1つであるデジタルマーケットプレイスの構築をCITO(最高情報・技術責任者)として主導した。macys.comとbloomingdales.comで外部セラーが商品を販売できるようにするこの取り組みは、25チームを束ね、250名以上のステークホルダーを調整し、40以上の業務・技術システムを改修する大規模なものだった。プロジェクトは予定通り完了し、最終的に20カテゴリーで400のサードパーティーブランドが追加され、そのうち8ブランドはメイシーズに初登場となった。クレデンディノの指揮下で、テクノロジーチームは米小売最大級のECサイトを全面的にクラウドに移行し、同社史上最大かつ最先端とされるノースカロライナ州チャイナグローブの新しい物流・補充センターの基盤技術も構築した。

バヴェシュ・ダヤルジ
チーフAIオフィサー兼CEO|ケンショー・テクノロジーズ(S&Pグローバル)

S&PグローバルのチーフAIオフィサーを務めるバヴェシュ・ダヤルジは、同社のAI戦略全体を統括している。AI分析プラットフォームを手がけるKensho Technologies(ケンショー・テクノロジーズ)の初期メンバーだった彼は、2018年に同社がS&Pグローバルに5億5000万ドル(約858億円)で買収されるまで、プロダクトとテクノロジーの成長を率いてきた。買収以降、S&Pグローバルは膨大なデータ資産を実用的なインサイトへ変えるために、AIへ10億ドル(約1560億円)超を投資してきた。ダヤルジはケンショーのCEOを兼務しつつ、2023年にはS&PグローバルのチーフAIオフィサーに任命され、AIファーストの企業文化を組織全体に根付かせている。その一環として、社員が独自のワークフローを共有し、各種モデルやエージェントを自分用にカスタマイズできる社内AIプラットフォーム「Spark Assist」を構築した。2024年に立ち上げられた同プラットフォームは、現在では2万5000人以上の社員が定期的に利用している。

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翻訳=上田裕資

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