株式の評価より利回り市場の創造を掲げ、配当を生む「永久優先証券」戦略を推進
それでもセイラーは、“ビットコインの伝道師”としての姿勢を崩しておらず、「株式の評価など問題ではない」と強調する。最近の彼のモットーである「クレジットこそが商品で、株式はその副産物だ」という言葉は、ストラテジーの将来がもはやビットコイン連動株でも、熟練トレーダーのヘッジ手段でもなく、「利回りを求める投資家に向けた、ビットコインを原動力とする収益商品」という新たな市場作りにあるという信念を端的に示している。
ストラテジーはその構想を実現するために、過去1年をかけて、満期がなく高い配当を支払い続けるという異例の金融商品「永久優先証券」を次々と投入してきた。総額86億ドル(約1.3兆円)に達する新シリーズは、「Strike(ストライク)」「Strife(ストライフ)」「Stride(ストライド)」「Stretch(ストレッチ)」「Stream(ストリーム)」と、まるでコミックのキャラクターのような名称だが、いずれも同社のビットコイン中心の資本構造を土台にした高配当の固定型商品という点で共通している。
ティッカーシンボルSTRKで取引されるStrikeは、額面100ドルに対して年率8%の配当を四半期ごとに支払う。ティッカーシンボルSTRFで取引されるStrifeは年率10%を支払い、複数ある優先証券シリーズのうち最も高い順位にある。ティッカーシンボルSTRDのStrideもまた、四半期ごとに年率10%を支払う。7月に導入されたSTRCことStretchの配当率は当初9%に設定され、毎月配当が支払われるうえ、価格を額面100ドル付近に保つため、利率が毎月調整される仕組みだ。
配当を「資本還元」として扱うことで、実質利回りが高まる点が“売り”
セイラーは、ストラテジーの優先証券から支払われる配当が「資本還元(Return of Capital, ROC)」として扱われる点を最大の売りにしている。この扱いであれば、投資家が受け取る分配金は課税所得ではなく取得原価の減額として処理されるため、その年の納税を避けることができる。結果として課税対象の投資家にとって、同種の企業優先証券よりも実質利回りが大幅に高くなる。
だが、最近のビットコインの下落局面は、ストラテジーの新たな優先証券にも打撃を与えた。STRCは現在、額面100ドルを割り込み、およそ11%の利回りで取引されている。今月発表されたユーロ建てのSTREも、2週間足らずで発行価格の100ユーロを下回り、利回りは10%から12.5%へと上昇した。
ビットコイン相場の低迷が長期化すれば、巨額の利払いと転換社債が重荷に
ビットコインの弱気相場が長期化した場合にセイラーが利払いを維持できるのか、投資家が不安を抱くのは当然だ。優先証券の配当と転換社債の金利を合わせると、ストラテジーは年間で約7億ドル(約1092億円)の支払いに直面している。同社は現在、約80億ドル(約1.2兆円)の転換社債を抱えており、そのうち74億ドル(約1.15兆円)分はアウト・オブ・ザ・マネー(本質的価値がなく権利行使しても意味がない)状態にある。つまり、満期時に債券保有者が株式へ転換する可能性は低い。かつては株価に安定したプレミアムがあり、新株発行による資金調達でビットコイン購入を続けてきたストラテジーだが、その手法はもはや株主価値を高める手段とはいえない。
ベンチマークのアナリストであるマーク・パルマーは、ストラテジーの第3四半期決算説明会で、CEOのフォン・レが複数の「緊急時対応策」を示したことを指摘した。そこには、カバードコールの売却(保有するビットコインを担保にコールオプションを売る取引)や、ストラクチャード商品(複数の金融商品を組み合わせて利回りを設計した商品)を使った利回り戦略といったビットコイン・デリバティブによる収益の創出、株式デリバティブを使ったキャッシュフロー強化、税務上のメリットを得るために高値で取得したビットコインを「損失覚悟で売却する」ことさえ含まれていた。
レとセイラーはまた、日本のビットコイン保有会社メタプラネットの時価総額が、ビットコインの持ち分の価値と同じ水準まで落ち込んだことを受け、大規模な自社株買いを発表した動きについて触れ、自分たちも追随する可能性を示唆した。
ストラテジーがビットコインを売却するかどうかについては、さらに複雑だ。同社のビットコインの平均取得単価は約7万4400ドル(約1200万円)だが、この水準を割り込んだからといって、強制的な売却に直面するわけではない。ストラテジーにとって最初に構造的な圧力が訪れるのは、10億ドル(約1560億円)分の転換社債が満期を迎える2028年9月になる予定だ。


