こうしたアプローチは、顧客に向けた取り組みとしてだけでなく、社内イニシアチブとしても効果的だ。例えば、トヨタの「創意くふう提案制度」では、全社員に対して、イノベーションや改善に関するアイデアの提供を促す。この取り組みは、同社に数十億ドル相当の価値をもたらしただけでなく、社員のエンゲージメントを大いに高めてきた。2023年、トヨタ社員は1人あたり平均14.4件の提案を行い、こうした提案の70%が実用化された。
これらの提案は、概してトヨタ社員の実体験に根差したものであり、継続的改善のカルチャーの醸成に寄与している。このプログラムは、社員の離職率を抑制し、エンゲージメントやパフォーマンスを高める上でも、長期的成功を上げている。
アクションプラン
成長のチャンスは、生かされるのを待っている。そのために実行可能なステップを紹介しよう。
・個人として
AIをマスターするよりも、AIの扱いに熟達しよう。コードを書く必要はない。必要なのは、AIに何ができるかを理解し、適切に質問する方法を身につけること、すなわちプロンプト・エンジニアリングだ。AIには手が届かないスキル、例えば共感、批判的判断、創造的協働といったものを伸ばそう。
・チームとして
AIの「スーパーユーザー」を発見しよう。トップダウンの指示を待っていてはいけない。すでに実験的な取り組みを行っているチームメンバーを見つけ、彼らの能力を認めて、同僚へのレクチャーを頼もう。小規模な試みから始めて、ワークフローを構築し、推進力をつけよう。
・組織として
AIガバナンスを速やかに確立しよう。危機が生じる前に、倫理的に超えてはならない「レッドライン」を定義しよう。部門横断的チームを組織し、ツールとアウトプットのレビューを実施し、バイアスやプライバシー侵害がないか検証しよう。何よりも重要なのは、共感的ビジョンを持った経営だ。問うべきは、「AIを使ってどうコストカットするか」ではなく、「AIをどのように利用すれば、社員と顧客が、本当に尊重され支援されていると感じられるか」だ。
結果を生み出す
組織における人間中心のイノベーションは、その対象が顧客であれ社員であれ、生身の人間のニーズや体験やインサイトを基礎とすることで、真に革新的なものになり得る。企業は、エンドユーザーに有意義な結果をもたらす方法を革新することにより、内外からの支持を得て、持続的成長を享受できるようになる。


